日本大百科全書(ニッポニカ) 「歴史と階級意識」の意味・わかりやすい解説
歴史と階級意識
れきしとかいきゅういしき
Geschichte und Klassenbewusstsein
ハンガリーの哲学者ゲオルク・ルカーチの代表作。本書は、1923年の公刊以来、さまざまに論評されてきた。いわく、主体・客体同一説的弁証法、疎外論を思わせる物象化論、弁証法的唯物論に反対する史的唯物論主義、ロマン主義的な全体性論、等々。本書の主題は、第一次世界大戦後、西欧の運命について絶望的な雰囲気が流れるなかで、歴史の全体性をいかにとらえるかという高らかなものであった。そのためには、現代社会において物象化されているプロレタリアートの立場にたつことである。商品形態の登場によって、歴史は主体と客体に分離せしめられた。プロレタリアートは客体の位置にあり、だからこそ、分離された主体と客体とをふたたび同一にもたらす役割を担いうるのだというのである。プロレタリアートの意識的実践を強調する本書は、1924年、コミンテルンによって観念論的逸脱と批判された。にもかかわらず、本書は西欧マルクス主義の古典として、1920年代以降の思想に大きな影響を与えてきた。
[清水多吉]
『城塚登他訳『歴史と階級意識』(1968・白水社)』▽『林誠宏・吉田浩司編注『歴史と階級意識』(1980・昭和堂)』