ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルラ」の意味・わかりやすい解説
ルラ
Lula, Luiz Inácio
ルイス・イナシオ・ルラ。ブラジルの政治家。大統領(在任 2003~11,2023~ )。フルネーム Luiz Inácio Lula da Silva。原名 Luiz Inácio da Silva で,のちにニックネームのルラ Lulaが加えられた。
ペルナンブコ州ガラニュンスの小作農の家に生まれ,幼い頃から靴磨きや露天商,工場労働者を経験する。1964年の軍事クーデターによる不況のなか,サンパウロ郊外サンベルナルドドカンポの鉄鋼企業ビジャレス・メタルに就職し,労働組合に加入,1972年には工場をやめて労組専従となり,1975年に委員長に選出されるまで法務部門を率いた。軍事政権に対して賃上げ運動を展開し,1978年から 1980年にかけての一連のストライキを主導して脚光を浴びたが,国家安全法違反により有罪となった。労働者党 PTの創設メンバーの一人となったルラは,1982年に同党候補としてサンパウロ州知事選挙に立候補したが,4位に終わった。1986年,サンパウロ州選出の国民議会(下院)議員に当選。その後,3度にわたって大統領選挙に立候補したものの,1989年はフェルナンド・コロル・デ・メロに,1994年と 1998年はフェルナンド・エンリケ・カルドゾといった保守派の候補にことごとく敗れた。
2002年の大統領選挙で,ルラはより現実的な政策を掲げて当選を果たし,2003年に就任。1期目は経済成長と貧困の削減に手腕をふるった。2期目を目指した 2006年の大統領選挙は,労働者党幹部が関与する汚職スキャンダルが発覚したにもかかわらず再選された。在任中,ブラジル沖合いのサントス海盆での巨大油田発見やリオデジャネイロでのオリンピック・パラリンピック競技大会開催決定などうれしいニュースが重なった。憲法上,3期目が認められていないことから,ルラは 2011年1月1日に任期満了で退任した。
ルラの後継者であるジルマ・ルセフ大統領が 2期目の当選を決めた 2014年末から 2015年にかけて,ブラジルは国営石油会社ペトロブラスからの巨額のリベートをめぐる未曾有の汚職事件に見舞われた。数十人の実業家や国会議員が捜査対象となり,2015年8月には 2003~05年にルラ大統領の首席補佐官を務めたジョゼ・ジルセウが逮捕された。ルラ自身も建設会社との関係で得た高級アパートの所有権を隠していたとして 2016年3月に家宅捜査を受けて起訴された。さらに,その直後にルセフ大統領がルラを首席補佐官に任命したことで,訴追回避のための任命と激しい批判を浴びた。同 8月31日,ルセフ大統領は弾劾裁判で罷免され,失職した。
ペトロブラスの疑惑をめぐり,ルラ自身は五つの汚職事件で起訴された。その間,同様に訴追されていた妻が倒れ,2017年2月に死亡した。ルラは 2018年1月24日に連邦地方裁判所(二審)で収賄と資金洗浄の罪で有罪判決(禁錮 12年1月。のちに 8年10月に減刑)を受け,4月8日には収監され,同 10月の大統領選挙への立候補を断念せざるをえなくなった。2019年11月8日,連邦最高裁判所が,二審で有罪になれば判決確定前でも収監できるとする判例は違憲であるとの判断を示し,ルラに対する刑の仮執行を差し止め,これによりルラは釈放された。さらに 2021年3月8日,同じく連邦最高裁はルラに出されていた有罪判決を取り消す決定をし,ルラの公職復帰が可能となった。ルラは 2022年10月の大統領選挙に労働者党の公認候補として立候補,現職のジャイール・ボウソナロを 10月30日の決選投票で,得票率約 51%対約 49%の僅差で破り,返り咲きを果たした。しかし,2023年1月8日,ルラの勝利を認めないボウソナロ支持者数千人が首都ブラジリアの連邦議会議事堂や最高裁判所,大統領府などに押しかけ,破壊行為に出る騒乱が発生した。
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