レーザー兵器には,レーザー光を利用して目標の標定,識別,ミサイル誘導などを行うレーザー応用兵器と,レーザー光のエネルギーで目標を破壊するレーザー・ビーム兵器とがある。レーザー応用兵器が最初に実用化されたのは1960年代中ごろで,短パルス・レーザー光の往復する時間から目標までの距離を計測する装置(レーザー測距装置)が各国の戦車に搭載された。その後,レーザー測距装置は双眼鏡型の小型携帯用のもの,赤外線装置等と組み合わせた対空射撃照準システム,航空機搭載測距システムなど種々の兵器システムに用いられている。このほか,ヘリコプターの障害物回避,巡航ミサイルの地形照合,目標識別,風速の遠隔計測,化学剤の探知など種々の応用が試みられている。1968年にベトナム戦で効果が実証されたアメリカのレーザー誘導爆弾は,目標を指向性の高いレーザー光で照射し,これに爆弾を誘導するものである。この方式は誘導砲弾やミサイルにも応用されている。このほかレーザー・ビームに沿ってミサイルを目標に導くビーム・ライダー誘導方式がある。また青緑色のレーザー光は水中を比較的よく透過するため,海底地図の作成や潜水艦との通信なども試みられている。
レーザー・ビーム兵器はレーザー光の集光性を利用したもので,強力なレーザー・エネルギーを目標上に集め熱的に瞬時に破壊するハードキルと,相手の光学センサーを無能化するソフトキルがある。アメリカにおいてはすでにミサイルなどの撃墜実験に成功している。最近のミサイルの発達により,ミサイルを防御することがしだいに困難となり,レーザー・ビーム兵器に対する期待は大きい。とくに宇宙においては,大気による減衰や空気加熱によるビームの乱れもなく,また戦略的にも意義はきわめて大きく,粒子ビーム兵器とともにアメリカにおいては巨額の費用を投入し研究が進められている。旧ソ連においても1980年代にミサイル迎撃用のレーザー兵器を実験したが,実用化はされなかった。目標を破壊するためには強力なレーザー光の発生技術,集光性の高い光学系および超精密指向技術が要求されるが,強力なレーザー装置としては,電源を用いず,フッ素と水素などの化学反応を用いた化学レーザーが有望視されている。さらに将来の問題として,レーザー光の短波長化およびX線レーザーの実現が模索されている。ただし,アメリカ国防省は戦場で用いて人間の目に入れば失明をもたらす恐れのあるレーザーの使用をやめる方針を1995年に決定した。
執筆者:藤沢 彰
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レーザーを応用した兵器の総称で、レーザーのエネルギーを相手の破壊や機能喪失に利用する兵器と、レーザーを目標探知や測距、通信などに用いる兵器とがある。前者は指向性エネルギー兵器(DEW=Directed Energy Weapon)の一種で、アメリカの戦略防衛構想(SDI)で注目を浴びたが、大出力のレーザーを安定して発振させる手段や遠距離の照準などの技術的困難があり、現在は開発も下火となっている。しかしアメリカ空軍では、ボーイング747旅客機に化学レーザーを搭載して、上昇段階の弾道ミサイルを撃墜するABL(Airborne Laser)を開発中で、2004年に空中におけるレーザー照射の実験に成功している。これとは別に、可視や近赤外のレーザーで人間の目をねらい、一時的あるいは永久的に視力を奪う目つぶしレーザーもあるが、残虐な兵器として国際的に使用を禁止されている。
一方レーザーのエネルギーを破壊以外に利用する兵器としては、目標の探知や識別に使うレーザー・レーダー(光波レーダー、lidar=light-wave radar)、光の往復から距離を測定するレーザー測距機(laser rangefinder)、光を目標に照射して味方にその位置を知らせるレーザー目標指示機などがある。レーザー誘導爆弾は、地上あるいは空中からレーザーを目標に照射し、その反射をたどって命中する仕組みである。
[野木恵一]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これと関連して医用レーザーが登場し,無血手術に利用されている。またアメリカやソ連ではレーザー兵器の開発が行われ,誘導ミサイル破壊用のレーザー研究も提唱されている。レーザーのエネルギーとその単色性を応用した同位体分離技術も重要である。…
※「レーザー兵器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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