1892年、H・A・ローレンツとG・F・フィッツジェラルドが独立に提唱した説で、運動方向に対して物体の長さが
倍に短縮する効果をいう。ここでcは光速、vは物体の速度である。この説はマイケルソン‐モーリーの実験の結果を説明するために考えられたもので、この効果の意味は、1905年、アインシュタインの相対性理論により、いっそう明確になった。相対性理論では、離れた場所における同時刻の定義は、互いに運動している座標系においては異なっている。ある2点A、Bがともに静止してみえる座標系での二点間の距離をl0とする。次にA、Bが速度vで運動してみえる座標系においての時刻が同時刻であるときの両者間の距離を測ると、長さは
となる。この差は座標系ごとに同時刻の定義が異なることに由来している。ある座標系における同時刻は、他の座標系では同時刻でなくなるから、その系では異なる時刻でのA、Bの間を距離と定義するわけであり、長さが異なってくるのは当然である。
ローレンツ変換を用いれば、A(tA,xA),B(tB,xB)を、vで運動する座標系からみてA′(t′A,x′A),B′(t′B,x′B)と書けば、t′A=t′Bとなる場のl=x′A-x′Bは、l0=xA-xBとして
となることをさしている。
[佐藤文隆]
マイケルソン=モーリーの実験は,絶対静止系(エーテル系)の存在を否定するものであったが,H.A.ローレンツはなおエーテル説との両立を求め,エーテルに対して速度vで動く物体は,光速度をcとすると,その方向にの割合で短くなると考えればよいことを示した(1893)。この仮説をローレンツ収縮,またはローレンツ短縮という(G.F. フィッツジェラルドも独立にこの仮定を立てており,フィッツジェラルド=ローレンツ収縮ともいう)。しかしすべての物体が,その物質や構造に関係なくエーテルに対する速度だけによって決まる割合で変形を受けると考えるのはいかにも不自然であった。後にアインシュタインは,光速度不変の原理に立つ特殊相対性理論により問題を完全に解決した。この理論によると,観測者に対し速度vで動く物体の長さは,物体に対して静止している座標系で測った長さの倍になる。これは一見ローレンツの結果と同じであるが,物理的解釈はまったく異なる。特殊相対性理論では,ローレンツ収縮は,力を加えての変形ではなく,時空概念の変更によるものである。
→相対性理論
執筆者:藤井 保憲
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…それは,電磁波は真空や物質の中を一様に満たしているエーテルという仮想的な媒質の中を伝わるというものであり,マイケルソン=モーリーの実験(これも静止したエーテルの存在を実験的に見いだそうとしたものである)が,これに対して否定的な結果を与えた後も,この考えはなかなか捨てられなかった。このような仮想的な物質を仮定することは,かえって困難を増すのみであったが,H.ローレンツとG.フィッツジェラルドは,それぞれ独立に,エーテル説に立ったうえで,マイケルソン=モーリーの否定的実験を説明するためには,速度vで動く物体は,その進行方向に倍短くなると考えればよいことを示した(ローレンツ収縮)。しかし,あらゆる物体が,その種類をとわず一様に収縮する機構を説明することはできなかった。…
※「ローレンツ収縮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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