マイケルソンモーリーの実験(読み)マイケルソンモーリーノジッケン(その他表記)Michelson-Morley's experiment

デジタル大辞泉 の解説

マイケルソンモーリー‐の‐じっけん【マイケルソンモーリーの実験】

1887年にマイケルソンモーリー(E.W.Morley)が行ったエーテル2存在についての実験干渉計を用い、静止するエーテルと相対運動する地球とによる干渉縞変化を見ようというもの。否定的結果を得て、特殊相対性理論に道を開いた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

マイケルソン‐モーリーの実験
まいけるそんもーりーのじっけん
Michelson-Morley's experiment

マクスウェルの光の電磁波論(1864)の提唱からアインシュタイン相対性理論(1905)までの一時期、光の波はエーテルという媒質の振動であると考えられていたため、このエーテル媒質の静止系に対し地球がどのような速度で運動しているかを測定しようという実験がいくつか試みられた。すなわち、地球は公転・自転運動をしているから、地上に固定した装置でも時間とともにエーテル静止系に対する運動方向が変化すると考えられたのである。こうした実験のなかでもっとも確定的な結果を出したのが、アメリカのマイケルソンとその協力者のE・W・モーリーによって行われた実験(1887)である。

 装置は、光源Lからの光が半透明鏡P1で二つに分けられ、鏡(M1およびM2)で反射させて、ふたたび二つの光を重ね合わせ、スクリーンTにできる干渉縞(じま)を見るものである。いま、この装置がエーテルに対して、P1M1の方向に速度vで運動していたとする。すると、P1で光が分かれたあと、ふたたびP1に戻るまでの時間がたとえ同じ長さであったとしても、P1PM2の方向に比べ、P1M2の方向で

だけ短くなる。このため、次にP1M2方向を速度の方向に装置を90度回転させて干渉縞を見ると、一般には最初のものと違ってくるはずである。しかし、この実験の結果では干渉縞の変化はいっさいみいだされなかった。すなわち、エーテルに対するこの装置の相対速度は検出できなかったのである。

 この実験結果を説明するため、いくつかの考えが提出された。その一つは、エーテルが地球の運動に引きずられていっしょに動いているというものである。また運動方向には物の長さが収縮するという説も、オランダのH・A・ローレンツイギリスのG・F・フィッツジェラルドらにより提唱された(ローレンツ収縮)。ともかく、マイケルソン‐モーリーの実験は、エーテルの運動を検出することが不可能であることを強く印象づけることになった。アインシュタインの相対論は、このようにして確立された光速度一定の原理を一つの基礎として成立したわけであるが、アインシュタインはマイケルソン‐モーリーの実験結果を直接意識していたわけではない。この実験はあくまでもエーテル説のうえにたってのみ意味のある実験であり、その説の困難さを明らかにした歴史的功績は大きかったといえる。

佐藤文隆

『西尾成子編『アインシュタイン研究』(1977・中央公論社)』

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改訂新版 世界大百科事典 の解説

マイケルソン=モーリーの実験 (マイケルソンモーリーのじっけん)
Michelson-Morley experiment

光の媒質としてその存在が考えられていた絶対静止のエーテルに対する,地球の相対運動を検証しようとして企てられた実験。結果は1887年に発表されたが,絶対静止系(エーテル系)の存在について否定的なもので,アインシュタインの特殊相対性理論を生む重要な根拠となった。

 絶対静止系が存在し,光は,この座標系で測ってc≒3×108m・s⁻1で進むものとしてみよう。ガリレイ変換に従うならば,エーテルに対してvの速さで動いている観測者からみると,光の速度はc±vとなるであろう。このことの正否を確かめるためにA.A.マイケルソンとモーリーEdward Williams Morley(1838-1923)は,図のaに示すような干渉計を用いた。光源Lから出た光は,半透鏡M0で直角方向の二つの光に分けられ,鏡M1,M2で反射された後再びM0によってこんどは望遠鏡Tに導かれ,ここで干渉を起こす。M0からM1,M2までの長さは,説明の便宜上,ともにlであるとする。

 今,装置全体がM0M1の方向に速度vで動いているとすると,光がM0M1の往復に要する時間はl/(cv)+l/(cv)=(2l/c)(1-v2/c2)⁻1である。また,M0→M2→M0と進む光をエーテル系からみると図のbのようなくさび型となり,所要時間は(2l/c)(1-v2/c2)⁻1/2となる。二つの進路の時間差によって望遠鏡Tに達する光には位相差が生ずる。装置全体を90度回転させると,この位相差はちょうど逆符号となり,したがって回転に伴ってTでは,干渉縞の移動が見られるはずである。エーテルは太陽系に固定しているものと考えると,vは地球の公転速度v≒30km・s⁻1≒10⁻4cとなる。マイケルソンとモーリーの装置では,十分な精度があったにもかかわらず,これによる干渉縞の移動は認められなかった。これは,光速がc±vのようにはならず,あたかも,どの座標系からみてもつねにcであることを意味するかのようであり,従来の考えではまったく解釈できない結果であった。
相対性理論
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百科事典マイペディア の解説

マイケルソン=モーリーの実験【マイケルソンモーリーのじっけん】

エーテルに対する地球の運動を検出するため行われた実験。光線を互いに垂直な2方向に分け,それぞれ鏡との間の距離を往復させた後再び合成して干渉させる。エーテルに対し地球が運動している方向と,それに垂直な方向では,同じ距離に対しても光の往復に要する時間が異なるので,二つの光線で位相の差を生じ,干渉じまを生じるが,装置全体を90°回転させれば位相差が変化するので干渉じまは移動するはずである。1881年マイケルソン,1887年彼とモーリーH.W.Morley〔1838-1923〕,以後多くの人が実験を繰り返したが結果は否定的で,エーテルに対する地球の運動は検出されなかった。この実験はエーテルの仮説に重大な困難を引き起こし,アインシュタインの特殊相対性理論を生む基礎になった。
→関連項目光速度フィッツジェラルドローレンツローレンツ収縮

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

マイケルソン=モーリーの実験
マイケルソン=モーリーのじっけん
Michelson-Morley's experiment

エーテルに対する地球の運動を確かめるため A.A.マイケルソンが E.W.モーリーとともに行なった光の干渉実験。マイケルソンは 1881年にマイケルソンの干渉計と呼ばれる精密な干渉計を用いて実験を行い,次いで 87年モーリーとともにこれを繰返した。光源から出た光束を半透明鏡によって2分し,それぞれを2つの反射鏡によって間を往復させたのち,望遠鏡に導いて干渉させる。それぞれの光束はエーテルに対する速さが異なるための位相差を生じているはずである。しかし,実験の精度は十分であったにもかかわらず,このための位相差は見出されなかった。つまり,エーテルに対する地球の運動はまったく検出されなかった。この結果はエーテル仮説に重大な疑問を提出し,A.アインシュタインが特殊相対性理論を構成するにあたって光速度不変の原理を確立する有力な動機となった。

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世界大百科事典(旧版)内のマイケルソンモーリーの実験の言及

【エーテル】より

…T.ヤングやフレネルによる光の波動説の再確認(18世紀末から19世紀初頭)によって,この了解は公的なものとなったと言ってよい。 19世紀末近く,地球が光エーテル系に対してもつはずの速度の実際的測定を目指した〈マイケルソン=モーリーの実験〉は,意外にもまったく期待された結果を示さず,結果的には,光エーテル系の存在そのものの疑問ともなったが,H.A.ローレンツ,G.F.フィッツジェラルドらの数学的な提案を経て,アインシュタインの特殊相対性理論の提唱(1905)によって,この問題の解決は得られた。一方,19世紀後半,電磁現象の統一的解釈として提案されたJ.C.マクスウェルの電磁方程式は,新たな空間像としての〈場〉の概念の数学的な確立を告げるものであり,量子力学も今日その延長上に展開され,素粒子もまた,そうした空間(場)としての定義を受けるに及んでいる。…

【相対性理論】より

…これはあまりに明白な理論的困難である。一方,速度の異なる座標系で光速を測定し,果たして差が現れるかどうかをみようとする実験も行われた(マイケルソン=モーリーの実験)が,そのような光速の差を検出することはできなかった。これは,(2)式の速度の合成則が成り立っていないことを意味するものであり,深刻な困難であった。…

※「マイケルソンモーリーの実験」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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