日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワッサーマン」の意味・わかりやすい解説
ワッサーマン
わっさーまん
Jakob Wassermann
(1873―1934)
ドイツの小説家。雑貨商の息子としてフュルトに生まれる。「若いドイツ」の作家K・グツコーと個人的にも知り合い、彼の崇拝者であった父親の希望に添って実業学校を卒業後、実務と軍隊生活を経験。E・v・ボルツォーゲンに請われて、ミュンヘンで政治的風刺を売り物としたイラスト誌『ジンプリチシムス』の編集に携わり、O・ブラームを中心とするベルリンの文士たちとも知り合う。処女作『ツィルンドルフのユダヤ人』(1897)、自伝的評論『ドイツ人およびユダヤ人としてのわが道』(1921)にみられるドイツ系ユダヤ人の内面的・社会的葛藤(かっとう)こそ、40編を超える作品の基調であった。友人T・マンはその語り口の「巧みさとまじめさの融合」を指摘し、異国に住むメルヘンの語り手と評したが、彼自身は「人間的・倫理的体験を芸術的に変容させ、人生に奉仕させること」をもって自己の文学的課題とみなした。女性解放、ユダヤ人問題、文明社会のゆがみを取り上げ、『若いレナーテの生活』(1900)、映画化された『マウリチウス事件』(1928、映画化邦題『埋もれた青春』)、『アンダーガスト』三部作など自然主義を脱した独自の新ロマン主義的作品を残した。
[谷口 泰]
『森鴎外訳『黄金杯』(『森鴎外全集10』所収・1954・岩波書店)』▽『白旗信訳『接吻されたことのない唇』(1956・鱒書房)』