ワルザー(読み)わるざー(英語表記)Robert Walser

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワルザー」の意味・わかりやすい解説

ワルザー(Martin Walser)
わるざー
Martin Walser
(1927―2023)

ドイツの作家。「ある形式の記述―カフカ試論―」で学位取得。南ドイツ放送局にディレクターとして勤務。「グループ47」の主導者H・W・リヒターにみいだされる。放送劇『愚かな人々』(1952)より近作スワンの館』(1980)まで、戦後西ドイツの社会が直面するアクチュアルな問題―ナチズム、ユダヤ人、東西ドイツ、高度経済成長と精神的退廃といった問題を「顕微鏡主義」といわれる精密描写の手法によってクローズアップした。おもな作品には『フィリプスブルクのさまざまな結婚』(1957)、『ハーフタイム』(1960)、『樫(かし)の木とアンゴラ兎(うさぎ)―あるドイツ年代記』(1962)、『愛のかなた』(1976)、『逃げる馬』(1978)、『白鳥の家』(1980)、『狩り』(1988)、『子供時代の弁護』(1991)などがある。

谷口 泰]


ワルザー(Robert Walser)
わるざー
Robert Walser
(1878―1956)

スイスのドイツ語圏作家。ベルン州ビール生まれ。母国とドイツでなかば放浪の生活を送ったが、晩年は精神に異常をきたして筆を折った。独学で詩、戯曲から出発、のちに「小さな形式」とよばれるスケッチ風散文に独自の分野を開拓して、一流文芸誌の寄稿者となる。小説は三編あり、いずれも一見稚拙な文章、放漫な形式の背後に異様なリアリティーを秘めているが、なかでも『ヤーコプ・フォン・グンテン』(1909)は、交錯する夢想と現実の間に生の深淵(しんえん)をのぞかせており、カフカの愛読書として知られている。

[藤川芳朗]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワルザー」の意味・わかりやすい解説

ワルザー
Walser, Martin

[生]1927.3.24. ワッサーブルク・アム・ボーデンゼー
[没]2023.7.26. ユーバーリンゲン
マルティン・ワルザー。ドイツの小説家。第2次世界大戦に従軍,復員してのち大学に入り,創作を始める。1955年に「47年グループ賞」受賞。フランツ・カフカばりの短編集『家の上の飛行機』Ein Flugzeug über dem Haus(1955)以来,一貫して社会批判の作品を発表。1987年ドイツ連邦共和国(西ドイツ)の連邦功労大十字章を受勲。主著に,小説『フィリップスブルクの結婚』Ehen in Philippsburg(1957),三部作をなす『ハーフタイム』Halbzeit(1960),『一角獣』Das Einhorn(1966),三部作をなす『転落』Sturz(1973),戯曲『樫とアンゴラうさぎ』Eiche und Angora(1962),『黒いスワン』Der schwarze Schwan(1964)。

ワルザー
Walser, Robert

[生]1878.4.15. ビエル
[没]1956.12.25. ヘリザウ
スイスの詩人,小説家。さまざまな職業を経たのち,ベルリンで作家生活に入る。 1933年から終生精神病院で過す。印象主義的な細密描写を通して,幼児的夢想,無能者的敬虔に漂う繊細な感情を,ロマン的アイロニーを交えて表わした文章は,カフカをはじめとして賛美者が多い。小品のほか,『タンナー兄妹』 Geschwister Tanner (1907) ,『ヤーコプ・フォン・グンテン』 Jakob von Gunten (09) などの小説がある。

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