ワルザー(その他表記)Walser, Martin

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワルザー」の意味・わかりやすい解説

ワルザー
Walser, Martin

[生]1927.3.24. ワッサーブルク・アム・ボーデンゼー
[没]2023.7.26. ユーバーリンゲン,ヌスドルフ
マルティン・ワルザー。ドイツ小説家,劇作家ギュンターグラスやジークフリート・レンツらと並ぶ現代ドイツ文学の重鎮
ボーデン湖畔の石炭を商う宿屋に生まれる。10歳で父親を亡くし,徴兵により第2次世界大戦に従軍。陸軍兵士として終戦を迎える。復員したのち大学に入り,レーゲンスブルクとテュービンゲンの大学で歴史,哲学,文芸学を学び,1951年にフランツ・カフカの研究で博士号を取得。在学中から南ドイツ放送でジャーナリストとして活動した。1953年から大戦後の西ドイツ文学を支えた先鋭的文学集団「47年グループ」に参加し,1955年には『テンプローネの最期』Templones Endeで 47年グループ賞を受賞。一貫して社会批判色の強い作品を発表した。主著に,小説『フィリップスブルクの結婚』Ehen in Philippsburg(1957),三部作をなす『ハーフタイム』Halbzeit(1960),『一角獣』Das Einhorn(1966),『転落』Sturz(1973),戯曲『樫とアンゴラうさぎ』Eiche und Angora(1962),『黒いスワン』Der schwarze Schwan(1964),自伝的小説『ほとばしる泉』Ein springender Brunnen(1998),著名な文芸評論家であるマルセル・ライヒ=ラニツキを連想させる『ある批評家の死』Tod eines Kritikers(2002)など。1987年にドイツ連邦共和国功労大十字章を受勲。1957年ヘルマン・ヘッセ賞,1980年シラー賞,1981年ビュヒナー賞など受賞多数。

ワルザー
Walser, Robert

[生]1878.4.15. ビエル
[没]1956.12.25. ヘリザウ
スイス詩人,小説家。さまざまな職業を経たのち,ベルリンで作家生活に入る。 1933年から終生精神病院で過す。印象主義的な細密描写を通して,幼児的夢想,無能者的敬虔に漂う繊細な感情を,ロマン的アイロニーを交えて表わした文章は,カフカをはじめとして賛美者が多い。小品のほか,『タンナー兄妹』 Geschwister Tanner (1907) ,『ヤーコプ・フォン・グンテン』 Jakob von Gunten (09) などの小説がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「ワルザー」の意味・わかりやすい解説

ワルザー
Robert Walser
生没年:1878-1956

スイスの詩人,小説家。ベルン州のビエルに生まれる。俳優を志すが挫折し,保険会社,銀行などの職場を転々としながらむしろ放浪生活のなかで詩作に従事。1898年ベルンの新聞に初めて詩が載る。1904年散文集《フリッツ・コッファーの作文》刊行。翌年ベルリンに移住,一時召使の職につく。ベルリン時代に《タンナーきょうだい》(1907),《助手》(1908),《ヤーコプ・フォン・グンテン》(1909)の自伝的長編を刊行。だが主観性が濃く世間的成功を得ず,13年帰郷。20年までのビエル時代は貧しいが自由な〈創作の最良の時〉であった。21年ベルンで職を得たが精神不安定が高じ,29年療養所に入院,56年ヘリザウ療養所で死亡した。作品の主人公は多く無用者であり,管理化・営利化された社会に対し終始アウトサイダーとしての姿勢をもった。細密描写のなかにロマン的な夢想と繊細な心情をたたえ,その遊戯的・装飾的でアイロニカルな表現の底には人生の深淵を見つめる作者のペシミスティックな目がひそんでいる。
執筆者:


ワルザー
Martin Walser
生没年:1927-

ドイツの小説家,劇作家。第2次世界大戦に学徒動員され捕虜となった。カフカ論《ある形式の記述》(1951)で学位をとる。カフカやブレヒトを批判的に継承し,自己意識を社会批判に結びつける。《フィリップスブルクの結婚》(1957),三部作《ハーフタイム》《一角獣》《転落》(1960-73),《愛の彼方》(1976),《逃げる馬》(1978),《心のはたらき》(1980)などの小説のほかに《かしの木とアンゴラ兎》(1962),《室内のたたかい》(1967)など戯曲多数がある。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワルザー」の意味・わかりやすい解説

ワルザー(Martin Walser)
わるざー
Martin Walser
(1927―2023)

ドイツの作家。「ある形式の記述―カフカ試論―」で学位取得。南ドイツ放送局にディレクターとして勤務。「グループ47」の主導者H・W・リヒターにみいだされる。放送劇『愚かな人々』(1952)より近作『スワンの館』(1980)まで、戦後西ドイツの社会が直面するアクチュアルな問題―ナチズム、ユダヤ人、東西ドイツ、高度経済成長と精神的退廃といった問題を「顕微鏡主義」といわれる精密描写の手法によってクローズアップした。おもな作品には『フィリプスブルクのさまざまな結婚』(1957)、『ハーフタイム』(1960)、『樫(かし)の木とアンゴラ兎(うさぎ)―あるドイツ年代記』(1962)、『愛のかなた』(1976)、『逃げる馬』(1978)、『白鳥の家』(1980)、『狩り』(1988)、『子供時代の弁護』(1991)などがある。

[谷口 泰]


ワルザー(Robert Walser)
わるざー
Robert Walser
(1878―1956)

スイスのドイツ語圏作家。ベルン州ビール生まれ。母国とドイツでなかば放浪の生活を送ったが、晩年は精神に異常をきたして筆を折った。独学で詩、戯曲から出発、のちに「小さな形式」とよばれるスケッチ風散文に独自の分野を開拓して、一流文芸誌の寄稿者となる。小説は三編あり、いずれも一見稚拙な文章、放漫な形式の背後に異様なリアリティーを秘めているが、なかでも『ヤーコプ・フォン・グンテン』(1909)は、交錯する夢想と現実の間に生の深淵(しんえん)をのぞかせており、カフカの愛読書として知られている。

[藤川芳朗]

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百科事典マイペディア 「ワルザー」の意味・わかりやすい解説

ワルザー

ドイツの作家。〈47年グループ〉の一員。《ハーフタイム》(1960年),《一角獣》などの長編で現代社会を総体的にとらえる手法の実験に意欲を示す一方,《かしの木とアンゴラ兎》(1962年),《黒鳥》などの戯曲でナチスを支えた体制と現在の社会の構造的連続を究明している。

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