中世ドイツ最大の叙情詩人。オーストリア南部の生まれ。騎士の身分といわれるが詳細は不明。若くしてウィーンの宮廷でラインマルに詩作を学ぶが、まもなく師とたもとを分かち、1198年庇護(ひご)者フリードリヒ1世の死後ウィーンを離れ、遍歴生活に入り諸侯の宮廷を渡り歩く。1220年ごろシュタウフェン家の皇帝フリードリヒ2世からウュルツブルクに封土を得、その地で没した。
ワルターは個性的な倫理感情の強い詩人で、詩的関心は広範囲に及ぶ。宮廷風のミンネリート(恋愛詩)約80編。当時の政治、社会がテーマの格言詩約100編。ほかにマリア賛美の詩ライヒ一編を残す。恋愛詩では、高貴な婦人に対する報われない愛を歌うラインマルの観念的な詩風に飽き足らず、愛の対象を低い身分の乙女に求め、愛の平等と自然な官能の喜びを歌ういわゆる「低いミンネの歌」をつくった。これは遍歴学生から学んだといわれ、田園詩風の『菩提樹(ぼだいじゅ)のこかげで』がよく知られている。格言詩では、社会秩序の確立を願い、シュタウフェン王家を擁護し、ローマ教皇の干渉と俗物性を風刺し激しく攻撃した。『石の上に座して』『ああ、教皇の笑いは』など、従来の素朴な格言詩を、政治詩、思想詩の域にまで高めた功績は大きい。『ああ、わが過ぎし歳月は』など晩年の作は、秩序の崩壊と世の転変を嘆く悲しみと諦念(ていねん)に満ちている。『パレスチナリート』とよばれる十字軍の歌は、メロディーが残存し、レコード化されている。
[伊東泰治]
『村尾喜夫訳注『ワルターの詩』(1969・三修社)』▽『高津春久訳『ミンネザング――ドイツ中世叙情詩集』(1978・郁文堂)』
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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