日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルゴ船」の意味・わかりやすい解説
アルゴ船
あるごせん
Argō
ギリシア神話で、金の羊毛皮獲得の旅に出た英雄たちが乗り組んだ船。アテネ女神の指導で船大工アルゴスが建造し、神聖な樫(かし)でつくられたその船首は人語を発しえた。この船の乗組員は「アルゴナウタイ」とよばれ、彼らの数々の冒険は一つの物語圏にまとめられた。初め、黒海の東コルキスの地より、金の羊毛皮を奪ってくることをテッサリアのペリアス王より命じられたイアソンは、ギリシア中から冒険好きの勇士を集めた。騎馬と拳闘(けんとう)にたけたディオスクロイ、駿足(しゅんそく)のエウフェモス、千里眼のリンケウス、飛行できるゼテスとカライス、楽人で預言者のオルフェウス、舵(かじ)取りの名手ティフィスなどの一芸に秀でた者のほかに、名高い英雄女傑も加わり、総勢50余名でテッサリアのイオルコスを出発した。
途中、ヘラクレスの脱落や、行く先々での夷狄(いてき)との戦い、フィネウス王の所でのハルピュイアイ退治などがあり、「撃ち合い岩」の間を危機一髪で漕(こ)ぎ抜けてやがてコルキスに到着する。そこではアイエテス王から難題(火を吐く牛に犂(すき)を引かせて畑を耕し、竜の牙(きば)を蒔(ま)くこと)を課せられるが、王女メデイアの援助を受けたイアソンがこれを果たした。金の羊毛皮を奪ったのちの帰路にも多くの冒険があり、彼らはダニューブ川を遡行(そこう)してのち陸行して北海に至り、あるいは西の果オケアノスに出たのち回航して地中海に戻った。つまりキルケの島、セイレネスの島(ここでオルフェウスの歌の魅惑がセイレネスの魔力に勝った)、アフリカ漂着、そしてクレタ島での青銅の巨人タロス退治などを経て、彼らはイオルコスに帰り着いた。
なおこの物語圏の背景には、ギリシア人(あるいは先住民)の海洋活動の経験があろうかと考えられている。ロドスのアポロニオスの叙事詩『アルゴナウティカ』がこれを扱ってもっとも詳しい。
[中務哲郎]