ギリシア神話の女神。太陽神ヘリオスの娘で,伝説的なアイアイエAiaiēという島に住み,魔法に長じていた。ホメロスの《オデュッセイア》によれば,オデュッセウスとその部下たちがこの島に着き彼女の館を訪れたとき,彼女は部下たちに魔法の酒を飲ませて豚に変えた。しかしオデュッセウスだけは,あらかじめヘルメス神から特別の魔除けの薬草を与えられていたので魔法がきかず,逆に彼に脅迫され,部下たちをもとの姿に戻すことを余儀なくされた。その後,彼女はオデュッセウス一行を1年間歓待したが,彼らが帰国を望んだので,その方途を教えて島を去らせたという。またロドスのアポロニオスの叙事詩《アルゴナウティカ》では,姪のメデイアがアイアイエに立ち寄ったとき,彼女はメデイアが弟のアプシュルトスを殺した罪をきよめてやっている。アイアイエは後代にはイタリアのラティウム地方のキルケイ岬を指すと考えられた。
執筆者:水谷 智洋
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ギリシア神話の魔女。また女神、ニンフともみなされる。太陽神ヘリオスとオケアノスの娘ペルセ(またはペルセイス)との娘。ホメロスによれば、伝説上の島アイアイア(後代ラティウム近辺のキルケイイ岬と目された)に住み、そのすみかは魔力によって野獣に変えられた人間たちで取り囲まれていた。ここに漂着したオデュッセウスは、探索に出した部下をブタに変えられてしまうが、自らはヘルメス神から与えられた薬草のおかげで魔術を免れ、部下を元の姿に戻すことにも成功した。そしてのちの1年間はこの島に滞在してキルケと同棲(どうせい)生活を送り、1子テレゴノスを得たが、ヘシオドスでは、アグリオスとラティヌスの2子が生まれたことになっている。またアルゴ船物語との関係では、キルケは姪(めい)にあたるメデイアがイアソンとともにこの島へやってきたとき、その弟アプシルトス殺害の罪を浄(きよ)めてやったとされている。
[丹下和彦]
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…オウィディウスの《転身物語》によれば,彼はもとボイオティア地方のアンテドンの漁夫であったが,たまたま口にした薬草のおかげで,上半身は人間,下半身は魚の姿をした海神となった。その後,まだ美少女だったスキュラSkyllaに求愛したものの相手にされなかったため,魔女キルケに助力を請うたところ,彼女はスキュラを海の女怪に変じてしまったという。この話はイギリスの詩人キーツの長詩《エンディミオン》の中でも,海神みずからの口から語られている。…
…イタリア中部,ラツィオ州ラティナ県の,ガエタ湾北西端の岬をつくっている岩山(541m)で,多様な植物,珍しい動物が見られ,国立公園に指定されている。オデュッセウスの従者を豚に変えた魔女キルケ(チルチェ)の神話で知られ,海の浸食によってできた洞穴のひとつにもその名が冠せられている。それらの洞穴ではしばしば先史時代の人間の居住の形跡が見つかり,1939年にネアンデルタール人の骨が発見された。…
※「キルケ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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