ローマの詩人オウィディウスによって西暦元年ころ作られた作品で〈恋愛術〉を意味する。エレゲイアの詩形による3巻,計2330行から成り立ち,最初の2巻は男性を対象として書かれ,その反響にこたえて第3巻が女性に向けて書かれた。恋人をいかにして手に入れるか,またいったんかなえられた恋を長く保つにはいかにすべきかを豊富な実例によって説いたもので,この作品はアウグストゥス帝の怒りを買い,オウィディウスの追放の原因の一つになったと考えられる。一種の教訓文学の流れをくむ作品で,学術書の体裁を借りて当時の上流社会の風俗を風刺をこめていきいきと描き出している。先輩の詩人ティブルスから創作のヒントを得たと考えられるが,機知に富む軽妙な語り口は彼独特のものである。中世以降もよく読まれ,フランスの《薔薇物語》やイギリスのチョーサーやシェークスピアの作品にも影響を与えている。
執筆者:引地 正俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代ローマの詩人オウィディウスのエレゲイア調恋愛詩。3巻。西暦1年ごろに刊行された。題名は修辞学(アルス・レトリカ)、文法学(アルス・グラマティカ)などをもじったもので、恋の達人オウィディウス先生が若者たちに「恋愛学」の奥義を伝授しようという趣向。始めの2巻は男性向けで、いかにして恋人を獲得し、愛を維持すべきかを説き、あとの1巻は女性に向けて、恋の心得、魅力増進法などを教える。警抜な風刺とアイロニーが横溢(おういつ)し、当時の都の風俗の生き生きとした描写と人間心理への鋭い洞察に富んだ戯作(げさく)文学の傑作の一つとされる。
[松本克己]
『樋口勝彦訳『アルス・アマトリア』(『世界文学大系 64』所収・1965・筑摩書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…続く《名婦の書簡》は,神話の有名な女性たちの名による恋文で,修辞のみならず,優れた心理分析と性格描写の才を示した。恋愛詩の最後は,美顔術と化粧法を説く《女の顔の手入れについて》,恋人を獲得するための技法を教える《アルス・アマトリア》3巻,およびその逆の忠告をする《恋の治療法》の3編で,これらは教訓詩のパロディである。詩人は今や〈恋の教師〉となった。…
…彼は体験ではなく,知識と想像力と修辞によって恋愛詩を書いた。最初の《恋の歌》ではしきたりに従って自分の恋に見せかけているが,次の《名婦の書簡》では主体的恋愛詩をやめて,神話の女性の恋を歌うギリシアの客観的恋愛詩に戻り,《女の顔の手入れについて》《アルス・アマトリア》《恋の治療法》では皮肉な理論と教訓に転じ,ついには恋愛詩自体を放棄して,神話伝説を歌う叙事詩《転身物語》とローマの祭礼の縁起を歌う《祭暦》に没頭した。こうして彼はギリシア・ローマの恋愛詩の伝統を総括し,完成させ,それに終止符を打った。…
※「アルスアマトリア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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