法的用語としては,犯罪者を一定の地域から放逐する刑罰で,世界各地に古くからあった。日本では中世には追却とも称し,鎌倉・室町両幕府法にみえるほか,荘園領主の刑罰としても一般的であった。戦国期にも追放刑が多用され,江戸時代に受け継がれて幕府法,藩法,その他旗本など領主法上の制度として定着した。
江戸幕府の《公事方御定書(くじかたおさだめがき)》は6段階の追放刑,すなわち重追放(おもきついほう),中(なかの)追放,軽(かるき)追放,江戸十里四方追放,江戸払(えどばらい),所払(ところばらい)を掲げ,各刑について御構場所(おかまいばしよ)(立入禁止の地域)を定めている。重追放は武蔵,相模,上野,下野,安房,上総,下総,常陸,山城,摂津,和泉,大和,肥前,東海道筋,木曾路筋,甲斐,駿河を,中追放は武蔵,山城,摂津,和泉,大和,肥前,東海道筋,木曾路筋,下野,日光道中,甲斐,駿河を,軽追放は江戸10里四方,京,大坂,東海道筋,日光,日光道中を,それぞれ住居の国および犯行の国とあわせ御構場所とする。ただし百姓,町人の場合,重・中・軽の3追放いずれも,江戸10里四方および住居の国,犯行の国のみから追放するものとし,付加刑たる闕所(けつしよ)(財産没収)の範囲だけが異なっていた。江戸十里四方追放は日本橋から四方5里のうちを,江戸払は品川,板橋,千住,四谷大木戸のうちおよび本所,深川を,それぞれ在方(ざいかた)の者については居村とともに構い,さらに所払は居町,居村からの追放であった。御構場所に立ち入った際には,刑を一等重くして追放する。刑期の定めはなく,原則として無期であるが,実際上は赦(しや)によって刑の量定がなされた。被追放者は従来の生活圏から切り離され,無宿となってあるいは街道筋を徘徊し,あるいは都市に流れて犯罪を重ねた。江戸時代後期にはこのような弊害が表面化し,追放刑の刑罰としての機能は著しく損われた。幕府はたびたび追放刑の制限をはかり,また人足寄場(にんそくよせば)を設けてその弊害に対処しようとしたが,徹底しなかった。
→遠島 →構(かまい) →流刑 →流罪
執筆者:加藤 英明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
共同体や組織などにおいて、その内部秩序や統制を維持・強化するために、特定の者を放逐したり、資格の剥奪(はくだつ)、活動の制限を行ったりすること。追放には、大きく分けて、共同体や組織体などの当該社会・団体の全体の意志に基づくものと、当該社会・団体の権力者や統制権者によるものとがある。前者には、ギリシアのオストラキスモス(陶片追放)や日本の村八分などの共同社会からの追放と、除名や粛清などの組織からの追放がある。後者では、流刑などの刑罰としての追放、外国人の強制退去などの国外追放、破門や罷免などによる行政組織や特定関係からの追放が区別される。終戦直後のわが国でなされた公職追放やレッド・パージが、これである。
[五十嵐仁]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
追却(ついきゃく)・追出(おいだし)・擯出(ひんじゅつ)とも。ある集団から外部に放逐すること。非行者に対する制裁であるとともに,集団秩序回復のための措置でもあった。流罪との違いは,そこから追放するだけで配所を定めない点にある。中世では,主従関係にもとづく追却や,村落内部の秩序維持のための非行者追放など,追放刑に相当する処分が広く行われた。近世でも刑法のなかで重要な位置を占め,所払(ところばらい)や軽・中・重追放などが定められた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…私的に所持する財産を官没するもので,公的な支配権の召上げは改易(かいえき)と呼び区別した。《公事方御定書》によれば,鋸挽(のこぎりびき),磔(はりつけ),獄門,火罪,斬罪,死罪,遠島および重追放の諸刑には田畑,家屋敷,家財の取上げが,中追放には田畑,家屋敷の取り上げが,軽追放には田畑の取上げがそれぞれ付加される。これを欠所と称し,武士,庶民を通じて適用したが,扶持人の軽追放においてはとくに家屋敷のみの欠所とする。…
…仕事に出精し心底が改まったと認められたものは,商売道具を与えられるなどして出所を許される一方,逃亡その他の規律違反は死罪を含む厳罰に処せられた。1820年(文政3)には,無罪の無宿のほか,追放刑の宣告を受けた有罪者を追放せずにここに入所させることが始まり,寄場は事実上,自由刑(懲役刑)を行う場所としての性格をもつようになった。ただしこの場合,寄場から出所後も御構場所(おかまいばしよ)への立入りは禁止されたから,追放刑の執行は免除されるのではなく延期されたにすぎず,寄場は法的には最後まで保安処分の施設であった。…
…逃亡とは,外国で犯罪を犯した者が逃亡してきたことを意味するのではなく,本来の裁判権から逃亡していることをいう。犯罪人引渡しは,追放(退去強制)とともに強制的出国の一方法である。追放が行政行為としてなされるのに対し,引渡しは,犯罪抑圧のための国際協力としてなされる刑事国際司法共助の一種である(国際共助)。…
…江戸時代,百姓・町人などで人別帳から除かれ(帳外(ちようはずれ)という),居所を定めず放浪し,無頼を働く者を無宿といい,やくざ仲間や犯罪人などは生国を冠して,上州無宿何某などと呼んだ。その原因は多様であるが,貧窮による欠落(かけおち)や家出のほか,親から久離,勘当されたり,博打(ばくち),窃盗,刃傷(にんじよう),失火などの罪によって軽追放,所払(ところばらい)などの刑に処せられた場合などがある。無宿には大別して,無宿野非人(のひにん)と呼ばれる乞食,物もらいのような存在と,もうひとつは長脇差を差した浪人体の者や博徒的存在の者があった。…
…中世の惣村(惣(そう))の掟にも制裁に関する条項がみられ,近世の村法(そんぽう)や明治以降の村規約の中にも多く発見できる。 制裁の種類としては,罪の軽い順で罰金,絶交,追放という三つがある。もっとも広範に現在なお行われているのは罰金であるが,その歴史は古い。…
…刑罰の中でも最も古い起源をもつもので,古典に〈放〉〈逐〉〈殛(きよく)〉などとも記される。追放であって,共同体との結びつきを絶たれ,生命は全うしがたい。かのゲルマンの〈平和喪失〉といわれるのもこれと同質である。…
※「追放」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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