翻訳|Alhambra
スペインのグラナダにある中世イスラム建築の遺構。洗練された華麗な美しさで世界的に有名。小高い船形の丘サビーカの上にあり、元来は砦(とりで)、王宮、浴場、モスクなどを城壁で囲んだ城塞(じょうさい)都市であった。アルハンブラの語源は、赤を意味するアル・ハムラであり、城壁に塗られた赤い漆食(しっくい)の色に由来している。イスラム最後の王朝ナスル朝のムハンマド1世(在位1230~1272)のときに造営が開始されたが、現在の遺構のほとんどは14世紀のユースフ1世とムハンマド5世の治下に建設されたものである。宮殿全体のプランは不定形であるが、基本的には三つの中庭(パティオ)を中心に構成されている。「桃金嬢(ミルト)の中庭」では長方形の池の東西に桃金嬢(テンニンカ)が植えられ、その周辺に謁見の間などの王の公的空間が並んでいる。名高い「獅子(しし)の中庭」の周囲には王の私的空間が設けられており、中央の獅子の噴水と、周囲に林立する細身の大理石円柱とが、繊細で調和ある空間をつくりだしている。「二姉妹の間」などの各部屋の天井、壁、床は、漆食と彩色タイルによるアラベスク模様で埋め尽くされており、その精緻(せいち)きわまる人工美は、見る人を夢幻的世界に誘い込まずにはおかない。同市内のヘネラリーフェ離宮、アルバイシン地区とともに世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。
[篠塚二三男]
スペイン南部のグラナダに残る,イベリア半島最後のイスラム王朝ナスル朝の王城(13~14世紀)。堅固な城壁内には,宮殿,要塞,モスク,造幣所などがあった。その名は,城壁の煉瓦,あるいは丘陵一帯の赤土を指すと思われるアラビア語のアル・ハムラーal-Ḥamrā'(〈赤いもの〉の意)に由来する。宮殿は,おもに第7代ユースフ1世(在位1333-54)とその子ムハンマド5世(在位1354-59,1362-91)の代に建造された。イスラム宮殿建築の伝統を踏襲して,池や噴水を設けたパティオ(中庭)を中心に構成されている。すなわち,〈獅子のパティオ〉と〈ミルト(天人花)のパティオ〉が中心となり,その周囲に,公儀の間(玉座〈大使の間〉),居室(ハレム〈2姉妹の間〉)などが配置される。アルハンブラ宮殿の名を不朽にしたものの一つに,漆喰,タイル,大理石による繊細華麗な装飾がある。アラベスク,花文,アラビア文字が織りなす壁面装飾,万華鏡さながらにドーム内面を隙間なく埋めつくす精緻なムカルナス(鍾乳石飾り)の美しさは無類である。宮殿の北東には離宮ヘネラリーフェが残る。1492年キリスト教徒が奪回した。
執筆者:杉村 棟
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