インド・ヨーロッパ語族の一語派。約250万人が公用語とするアルバニア共和国のほか、セルビア、モンテネグロ、北マケドニア共和国、ギリシア、南イタリアなどでも話されている。古代史家のいうアルバニアは、コーカサス地方のカスピ海西岸の地域で、現在のアルバニアは主としてラテン語の勢力範囲であった。おそらく周辺の山岳部に住んでいたアルバニア語族が、徐々にラテン語を同化したものであろう。文献は15世紀の聖書訳に始まりそれ以前の歴史は明らかでない。古代から近代まで長く外国の支配下にあったため、強くその影響を受けたが、とくにラテン系の語彙(ごい)の借用語が非常に多い。シュキペリアShqipëria(トスク方言形)と自称するアルバニアには、トスクToskとゲグGhegとよばれる二大方言が、アルバニアの首都チラナ付近を境に南北で話され、文語も異にするが、最近では統一的傾向にあるという。文字はラテン・アルファベットを使用する。名詞は男女性(中性はほとんど消滅)格は5、動詞も現在、未完了、アオリストaorist(不定過去)、完了(合成表現)の時制のほか、法の区別もあり、インド・ヨーロッパ語の屈折的特徴を保っているが、定冠詞の後置、格の融合などに他のバルカン諸語と共通の傾向を示している。
[風間喜代三]
インド・ヨーロッパ語族に属し,独立の一語派をなす。アルバニア本国のほか,旧ユーゴスラビア(とくに現コソボ共和国など),マケドニア,ギリシア,さらにはシチリアを含む南イタリア,トルコ,アメリカ合衆国にも少数の話し手をもち,言語人口は推定300万。首都ティラナ付近を境に南北にトスクTosk,ゲグGegと呼ばれる方言が話され,それぞれに文語をもつが,最近では統一的傾向にあるという。北方言には五つの鼻母音があり,母音に長短の区別があるが,南にはない。南イタリアとギリシアのアルバニア人は,古い南方言を話す。文字はラテン・アルファベットを使用している。この地は古代にはローマ,中世にはスラブ,ビザンティン帝国,そして15世紀から長い間トルコの支配下にあったため,言語的にもそれらの影響を強くうけている。とくにラテン・ロマンス系の諸語からの借用語が多く,全語彙の過半を占めるほどである。文献は比較的新しく,15世紀の聖書の翻訳にはじまる。現代語では,定冠詞の後置,属格と与格の融合,未来表現の形式などに,他のバルカン地域の諸言語と共通の傾向を示しているが,動詞の人称変化,時制組織にはなお古いインド・ヨーロッパ語の特徴がうかがわれる。古代史家はイリュリア語の後裔とするが,根拠に乏しい。
執筆者:風間 喜代三
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