アントアーヌ(読み)あんとあーぬ(英語表記)André Antoine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アントアーヌ」の意味・わかりやすい解説

アントアーヌ
あんとあーぬ
André Antoine
(1858―1943)

フランス俳優演出家演劇改新者。リモージュに生まれ、小官吏の平凡な家で育つ。軍隊生活を送り、のちにパリのガス会社に勤めたが、早くから抱いていた演劇への情熱は絶ちがたく、1887年にアマチュア同好の仲間とともに「自由劇場」を開き、ヨーロッパの近代劇運動の先駆的な役割を果たした。エミールゾラの演劇観に触発され、自国の自然主義的戯曲のみならず、イプセントルストイなどの戯曲を演出し、従来の演劇の約束事を排して、装置と演技にきわめて正確な日常性を要求し、演劇における真実性を追求した。舞台に俳優が生活する環境をつくる演出観は後のリアリズム演劇に大きな影響を与えた。1897年にアントアーヌ劇場を主宰し、1906年に国立オデオン座座長として活動するが成功に至らず、しだいに実際活動から離れ、晩年劇評家として名を残した。

[加藤新吉]

『斎藤一寛著『舞台の鬼アントワーヌ――フランス自由劇場の歩み』(1962・早稲田大学出版部)』

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改訂新版 世界大百科事典 「アントアーヌ」の意味・わかりやすい解説

アントアーヌ
André Antoine
生没年:1858-1943

フランスの演出家。リモージュに生まれ,家族と共にパリに出てガス会社に勤め,貧しい暮しの中でアマチュア劇団に参加。1887年に〈自由劇場〉を設立,ド・キュレルの《聖女の仮面》,クルトリーヌの《ブーブロッシュ》など,新人の作品上演して世に認めさせたほか,ゾラの小説の脚色や自然主義作家たちの戯曲,トルストイ,イプセン,ストリンドベリハウプトマンなどを上演,〈実人生の断片〉を綿密に写実する演出によって,現代演出の父と目される。舞台に本物の牛肉を下げたり,噴水から実際に水を出させたりする自然主義の行過ぎもあったが,舞台と観客との間に〈第4の壁〉を想定し,客受けを意識せずに登場人物になりきる演技を要求して,劇の真実味と迫力と統一を回復した歴史的意義は大きい。97年にアントアーヌ座に移り,ルナールの《にんじん》やシェークスピアの《リア王》で成功。1906年から14年までオデオン座を主宰し,《ル・シッド》《ジュリアス・シーザー》《ファウスト》などの古典の大作に取り組むが,財政的破綻を招き,第1次大戦後はもっぱら劇評家として活躍した。
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百科事典マイペディア 「アントアーヌ」の意味・わかりやすい解説

アントアーヌ

フランスの俳優,演出家。1887年自由劇場を創設。イプセンハウプトマンらの作品を紹介上演し,フランスの現代演出の先駆者となる。1897年アントアーヌ座創設。1906年―1913年オデオン座支配人となり,劇評家としても活躍。
→関連項目グライン自由舞台マイニンゲン一座

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アントアーヌ」の意味・わかりやすい解説

アントアーヌ
Antoine, André

[生]1858.1.31. リモージュ
[没]1943.10.9/21. ロアールアトランティク
フランスの俳優,演出家。 1887年自由劇場を結成,ゾラの支持を得,イプセン,ストリンドベリ,ハウプトマンらの作品を上演した。自由劇場は 94年に解散したが,彼の理念と実践は他のヨーロッパ諸国の演劇に強い影響を与えた (→自由劇場運動 ) 。 1897年から 1906年までアントアーヌ劇場を主宰し,E.ブリュー,P.リッシュら,フランスの新しい劇作家の作品を上演。その後,オデオン座の総監督をつとめ (1906~14) ,晩年は劇評家として活躍した。著書『自由劇場の回想』 Mes souvenirs sur le Théâtre Libre (21) ,『アントアーヌ劇場とオデオン座の回想』 Mes souvenirs sur le Théâtre Antoine et sur l'Odéon (28) 。

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世界大百科事典(旧版)内のアントアーヌの言及

【演出】より

…1874年から90年にかけて彼の劇団マイニンゲン一座はヨーロッパ各地の都市を巡演したが,その集団的演技による群衆処理と写実的な演出は,各国の近代劇運動に大きな影響を与え,数多くの新しい演出者が登場してきた。戯曲の言葉を重視し,自然主義を徹底させた自由劇場Théâtre Libreを創設(1887)したフランスのA.アントアーヌV.I.ネミロビチ・ダンチェンコとともにモスクワ芸術座を結成(1898)してチェーホフ,ゴーリキーらの新しい戯曲をとりあげ,リアリスティックな俳優術を探究したK.S.スタニスラフスキーなどすぐれた演出家が生まれてきた。イギリスのE.H.G.クレーグは演出の概念を徹底化し,理論的考察を与えた最初の人である。…

【近代劇】より


[近代の小劇場運動]
 既成劇場では十全な舞台表現を与えられない過激なリアリズム劇を,それに適した方法で上演しようとしたのが19世紀終りの若い演劇人による小劇場運動であった。近代的な演出家の最初の人ともいわれるマイニンゲン公ゲオルク2世が率いる劇団の写実的な舞台に感銘を受けていたA.アントアーヌは,1887年にパリで素人俳優の集りのような〈自由劇場Théâtre Libre〉を結成し,新しい作家を世に送り出すとともにイプセンの《幽霊》や《野鴨》をフランスで初演し,トルストイの《闇の力》を世界初演(1888)した。彼はみずからも舞台に立ったが,観客に背をむけてしゃべり,舞台上に本物の肉をぶらさげるといった徹底した自然主義をめざした。…

※「アントアーヌ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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