フランスの物理学者、数学者。リヨンに生まれ、ルソーに傾倒する商人の父から『エミール』Emile式に教育され、ビュフォンの『博物誌』や、『百科全書』に強い影響を受けた。1793年、フランス革命の際、治安判事をしていた父が逮捕、処刑され、彼自身も1799年に結婚したが、4年後に妻が病没、再婚したがまもなく離婚し、また二人の子も安定した生活が得られず悩みの種になるなど、家庭的には不幸続きであった。1802年、ブール・カン・ブレスのエコール・セントラルの物理学および化学教授となり、その後リヨンの高等学校教師を経て、1808年新大学制度下での監察官、1819年パリ大学の哲学担当となり、翌1820年同大学天文学助教授、1824年コレージュ・ド・フランスの実験物理学教授に選任された。晩年には金銭上の心配も加わり、健康を害し、孤独のうちにマルセイユで没した。
科学的業績としては電気力学の建設がもっとも重要であるが、研究は多方面にわたる。初期には数学者として知られ、1820年以前には化学にも傾倒、デービーに先んじて塩素やヨードの単体性に気づいたほか、ラボアジエの元素分類法とリンネの植物分類の類似性から、全化学体系の構築を試みた。気体分子物理面では「アボガドロの法則」を発見し、この法則はフランスでは「アボガドロ‐アンペールの法則」とよばれている。
1820年、デンマークのエールステッドが、電流が磁針に力を及ぼすことを発見すると、アンペールもただちに電流の磁気に関する実験を開始し、電流の流れる導線間に力が作用することを発見、これを数学的に解析し、電流と磁気に関する「アンペールの法則」を提出した。さらに螺旋(らせん)形導線を流れる電流と磁石の同等性およびフレネルのヒントから分子電流を想定、電気力学的分子の仮説を提唱した。彼がこの力学モデルを電気現象のみならず、磁気現象や化学結合、電気親和力などすべてを説明する物質の新理論とみなしたことや、彼の特異な哲学とも結び付けたことが、彼の電気力学理論がただちに世に受け入れられない一因ともなった。しかし彼の仮説はのちにウェーバーの電磁理論の基礎となった。これらの1821~1825年の電気力学に関する数学的研究は1827年に『電気力学的諸現象の数学的理論集』Mémoire sur la théorie mathématique des phénomènes électrodynamiques uniquement déduite de l'expérienceとして公刊され、また、カントに影響を受けた科学分類論、科学哲学は1834年の『科学哲学試論』Essai sur la philosophie des sciencesにまとめられた。無定位磁針の発明もある。電流の単位「アンペア」は彼の名に由来する。
[木本忠昭 2018年6月19日]
フランスの物理学者,化学者。リヨンの生れ。幼時より語学と数学の才能を表し,オイラーやベルヌーイの数学書にも親しんだ。1793年フランス革命の中で父が保守派として処刑され,恵まれない生活をおくったが,その中でJ.J.ルソーの植物書に啓発されて科学を志し,1802年の確率に関する論文が認められ,03年リヨン高等学校の数学教師となった。翌年パリのエコール・ポリテクニクの教師,09年同校教授を経て,20年コレージュ・ド・フランスの教授となる。
1810年代はおもに電気化学の研究を行ったが,20年H.C.エルステッドが電流の磁気作用を発見すると直ちにこの研究に専念し,まもなく電流間の相互作用を見いだし,さらに巧みな実験と,磁石と円環電流を等価とする解析を進め,22年電流要素間に働く力を数式化した。この成果は,M.ファラデーによる電磁誘導の法則の発見とともにJ.C.マクスウェルの電磁理論形成への道を開いた。アンペールは電磁理論をニュートンの力学の方法に従って組み立てようとしたのであり,彼自身は自分の理論に対し電気力学の名を与えた。
→アンペールの法則
執筆者:田中 国昭
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…フランスの物理学者A.M.アンペールが発見した定常電流のまわりに生ずる磁場に関する法則。図1に示すように定常電流i(A)のまわりには,電流iの向きに右ねじを進めるようなねじの回転方向に沿って磁場Hが生ずる。…
…電磁石の原理は,エルステッドの発見にすぐ続いてフランスのD.F.J.アラゴーが発見したのである。 エルステッド,アラゴーに続いてA.M.アンペールが,電流の通っている導線が互いに力を及ぼすことを発見し,次いで,この力の大きさを表す式を導くことに成功した。アンペールは,電流や磁石の間に働く力を遠隔力とみなし,この力を電流や磁石の配置から計算するための法則を見いだして,この力の表式とニュートンの運動方程式とを使って,種々の磁石の示す現象を論ずるという構想をたて,これを〈電気力学〉と名付けた。…
※「アンペール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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