アートマン(その他表記)ātman

デジタル大辞泉 「アートマン」の意味・読み・例文・類語

アートマン(〈梵〉ātman)

と訳す》インド哲学用語。もと呼吸意味。次いで自我霊魂を意味するようになった。のちにウパニシャッド哲学では、宇宙原理ブラフマンぼん)と同一視された。

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精選版 日本国語大辞典 「アートマン」の意味・読み・例文・類語

アートマン

  1. 〘 名詞 〙 ( [サンスクリット語] ātman ) インド哲学の用語。聖典リグベーダでは「自分」「身体」「呼吸」を意味し、次いで人間の「本性」「自我」を、さらに物一般の「本質」をさす。ウパニシャッドに至って宇宙の原理ブラフマン(梵)と同一視された。

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改訂新版 世界大百科事典 「アートマン」の意味・わかりやすい解説

アートマン
ātman

サンスクリット語で,インド哲学において自我をあらわす術語。〈我(が)〉と漢訳される。原義については諸説がある。しかし,本来は〈呼吸〉を意味したが,転じて生命の本体としての〈生気〉〈生命原理〉〈霊魂〉〈自己〉〈自我〉の意味に用いられ,さらに〈万物に内在する霊妙な力〉〈宇宙の根本原理〉を意味するに至ったと,一般に考えられている。インドにおいては,すでに《リグ・ベーダ》の時代から,宇宙の原因が執拗に追求され,多くの人格神や諸原理が想定された。ウパニシャッドの時代になると人格神への関心はうすれ,もっぱら非人格的な,抽象的な一元的原理が追求されるようになった。この結果到達された諸原理のうち,最も重要なものはブラフマンとアートマンである。ウパニシャッドの哲人たちは,個人の本体であるアートマンと宇宙の根本原理であるブラフマン(梵)とは同一である,すなわち〈梵我一如〉であると説いた。ウパニシャッド以来,アートマンの問題はインド哲学の主要な問題の一つとされ,インド哲学史には,アートマンの存在を認める流れと認めない流れとの二大思潮がある。前者の代表は正統バラモンの哲学体系の一つであるベーダーンタ哲学であり,その中でもとくに,梵我一如の思想を発展させた不二一元論によれば,アートマンすなわちブラフマン以外の一切はマーヤー幻影)のように実在しないという。サーンキヤ哲学ヨーガ哲学においては,アートマンすなわちプルシャを,宇宙の質料因としての根本物質プラクリティから全く独立した純粋に精神的原理とみなし,二元論の立場をとった。後者の代表は,縁起説の立場から無我説を主張した仏教である。唯物論者もまた,精神的原理としてのアートマンの存在を否定した。有我説の立場においては,肉体は死とともに滅するが,アートマンは不滅であり,死後は輪廻の主体となって,過去の業(ごう)にふさわしい身体を得て,再生すると信じられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アートマン」の意味・わかりやすい解説

アートマン
あーとまん
Ātman

「個体の本質」を示すインド哲学の術語。「我(が)」と訳される。原義については諸説あって一定しないが、『リグ・ベーダ』以後の文献においてしだいに哲学的意義を帯びるようになり、ブラーフマナ文献を経て、生気(プラーナ)、意(マナス)、言葉(バーチュ)などの精神原理を超え、個体を統一する普遍的な最高実在を示す語としての位置を得た。ウパニシャッド文献において、宇宙の最高原理ブラフマンとの同一が説かれ、梵我一如(ぼんがいちにょ)思想が唱えられた。以後、アートマンは、インド哲学諸学派によって種々に考察され、ニヤーヤ学派、バイシェーシカ学派では、その実在性の論証に意を払い、ベーダーンタ学派では、ウパニシャッド思想を継承して梵我一如思想を強調した。仏教は、無我説を主張する。

[松本照敬]

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百科事典マイペディア 「アートマン」の意味・わかりやすい解説

アートマン

インド哲学の重要な概念の一つで,我(が)の意。元来は〈気息〉を意味したが,転じて〈生気〉〈生命〉の意となり,哲学的には〈自我〉〈霊魂〉を意味する術語とされた。宇宙の根本原理の名称であるブラフマン(梵(ぼん))と対になる個体的原理をさす。
→関連項目ウパニシャッド梵我一如ヤージュニャバルキヤ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アートマン」の意味・わかりやすい解説

アートマン
ātman

サンスクリット語で,我 (が) と漢訳される。元来「気息」を意味したが,転じて生気,身体,さらに自身の意味になり,哲学的概念としては自我,自己,霊魂,さらに「本体」「万物に内在する霊妙な力」を意味する。ウパニシャッドには,アートマンからの世界創造が説かれるとともに,アートマンを認識すべきであることが強調されている。また,アートマンがブラフマンにほかならない (梵我一如) という思想がウパニシャッドの根本思想であるとされる。ブラフマンが中性語であるのに対し,アートマンは男性語である。仏教では無我を主張し,アートマンを形而上学的な原理とみなすウパニシャッドの説を否定する。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「アートマン」の解説

アートマン
ātman

インドのウパニシャッド哲学の概念。本来「気息」を意味したが,自己,人間存在の根本原理を表すものとなった。これに対する認識,これと宇宙の根本原理のブラフマンとが同じであること(梵我一如(ぼんがいちにょ))の認識の重要性が説かれた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「アートマン」の解説

アートマン
ātman

ウパニシャッド哲学において,個人の本体を表す語で,「我」と訳す
人間存在の不変の本質であり,ブラフマン(梵)と究極的に一体化すると考えられた。これを梵我一如 (ぼんがいちによ) という。

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世界大百科事典(旧版)内のアートマンの言及

【シャンカラ】より

…彼が教えている解脱への手段は宇宙の根本原理であるブラフマンbrahman(梵)の知識である。これは自己の中にある本体すなわちアートマンātman(我)はブラフマンと同一であるという,ウパニシャッドの梵我一如にまでさかのぼる真理である。身体を含めたいっさいの現象世界は一種の質料因である物質的な〈未開展の名称・形態avyākṛte nāmarūpe〉から展開したものである。…

【無我説】より

…固定的実体的な自己(我,アートマンātman)は存在しないとみる仏教独自の思想。サンスクリットでナイラートミヤ・バーダnairātmya‐vāda。…

【観念論】より

…ただ,あえて言うならば,インド思想のほとんどは観念論だということになろう。たとえば,《ウパニシャッド》文献に端を発するベーダーンタ学派,サーンキヤ学派の考えによれば,われわれが経験するこの世界は,われわれが自己の本体(アートマン)が何であるかを知らないこと(無知,無明)がきっかけとなって展開したものであり,つまりわれわれの日常的認識(分別,迷妄)が作り出したものであるとする。これは仏教でも基本的には同様であり,《華厳経》の〈三界唯心〉,瑜伽行派の〈唯識無境〉〈識の転変〉なども,日常生活における主客対立の見方である〈虚妄分別〉の心作用がこの世界を形成すると説いている。…

【シャンカラ】より

…彼が教えている解脱への手段は宇宙の根本原理であるブラフマンbrahman(梵)の知識である。これは自己の中にある本体すなわちアートマンātman(我)はブラフマンと同一であるという,ウパニシャッドの梵我一如にまでさかのぼる真理である。身体を含めたいっさいの現象世界は一種の質料因である物質的な〈未開展の名称・形態avyākṛte nāmarūpe〉から展開したものである。…

【初期仏教】より

…縁起とは,ものごとは必ず原因によって結果が生ずる,という相依関係をいう。また無我説とは,人間のいかなる部分にも,伝統的ウパニシャッドのいうアートマン(我)は存在しないという主張である。 初期仏教はこのように,当時の享楽主義的風潮と,伝統的苦行主義や形而上学を否定し,実際経験できる人間の身体的・精神的現象のみを取り上げて,欲望を滅し静かな涅槃の境地に入ることをすすめている。…

【無】より

…ウパニシャッドの有名な文句に,〈そうではない,そうではない〉というのがある。これは,本当の自我(アートマン)は,いかなることばをもってしても指し示すことはできないということをいったものである。また,単なる無をさらに押し進めた〈空〉を主張した中観派の開祖として知られる竜樹(ナーガールジュナ)は,ことばのもつ限界,自己矛盾を徹底的にあばいた。…

【無我説】より

…固定的実体的な自己(我,アートマンātman)は存在しないとみる仏教独自の思想。サンスクリットでナイラートミヤ・バーダnairātmya‐vāda。…

【ヤージュニャバルキヤ】より

…《ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド》などの初期のウパニシャッドに登場する。彼の哲学説の中心はアートマン(自己の本体)論である。彼によれば,この世界はすべてアートマンにほかならない。…

【ラーマクリシュナ】より

…65年ころ,ベーダーンタ学派の哲学を奉ずる遊行者トーター・プリーに出会い,彼を師に出家式を行い,ラーマクリシュナの名を与えられた。トーター・プリーの指導下に,彼は無形,無相,永遠のブラフマン(すなわちアートマン〈真我〉でもある)を経験するに至った。この状態は無分別三昧(ニルビカルパ・サマーディ)といわれ,これを体験することによって彼はヒンドゥー神秘主義の伝統のうちに完全に定位された。…

※「アートマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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