マナス(その他表記)Manas

改訂新版 世界大百科事典 「マナス」の意味・わかりやすい解説

マナス
Manas

キルギス族英雄叙事詩。古来,キルギス族の間に口承で伝えられ,19世紀の中葉に,ロシアのCh.Ch.ワリハーノフやV.V.ラードロフによって初めて文字に採録されて以後,その本格的な研究が開始された。50万行を超えるこの膨大な史詩は,それを語り伝えたマナス誦(よ)みmanaschiによって,少なくとも18種類以上の異本が生み出されており,その原形が,いつ頃いかなる形でつくり出されたものであるかは,現在なお明らかでない。しかしその大筋は,サリ・ノガイ族の王子マナスの誕生と,その少・青年時代の描写,マナスの結婚と,カルムク人によるマナスの暗殺,マナス亡き後に生まれたその子セメテイの,再度なるカルムク人による暗殺,セメテイの遺子セイテクによるカルムク人に対する壮絶な復讐など,草原の英雄たちが負わねばならなかった運命的な生と死の物語を主題として,その間に激情的な恋や華やかな宴,さらに英雄たちの競べ馬や壮烈な一騎打の場面などがうたいこまれている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マナス」の意味・わかりやすい解説

マナス
まなす / 瑪納斯

中国、新疆(しんきょう)ウイグル自治区北部、ジュンガル盆地の南縁にある県。昌吉(しょうきつ)回族自治州に属する。常住人口23万7558(2010)。天山(てんざん)山脈北麓のオアシス地帯でマナス河が県内を北流する。牧畜をはじめ小麦やワタ栽培が盛んで、北西内陸綿作地帯の主産地をなす。1950年代、中国人民解放軍などにより砂地開墾が進み、灌漑(かんがい)網が発達した。紡績石炭化学などの工場や火力発電所が立地する。県内を蘭新(らんしん)線が通る。

[駒井正一・編集部 2018年1月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マナス」の意味・わかりやすい解説

マナス
Manas

キルギスの基幹住民,キルギス人の代表的英雄叙事詩。民族の英雄マナスとその息子セメティ,マナスの孫セイテカの生涯戦功の物語。 12世紀のカラ・キタイ (→西遼 ) ,15~18世紀のオイラート (瓦剌)の侵入と戦いを表しているといわれる。 19世紀後半,ドイツに生まれ,ロシアで活躍したチュルク学者 V.ラドロフによって採録され,その記録"Proben der Volksliteratur der nördlichen türkischen Stämme" (1885) が刊行された。

マナス
manas

サンスクリット語で心のこと。漢訳仏典では意と訳される。『リグ・ベーダ』では不滅の霊魂を言い表わす語であった。バイシェーシカ哲学ではマナスは原子大で身体に一つだけ存し,きわめて速く活動し,アートマンと感官との媒介をなすものとみられる。『アディヤートマ・ラーマーヤナ』や『マーンドゥーキヤ・カーリカー』では世界の動力因とも考えられている。

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世界大百科事典(旧版)内のマナスの言及

【中央アジア】より

…遊牧民の間における文字の使用については,7世紀末~9世紀半ばの突厥文字,13世紀以降のモンゴル文字など,若干の例はあるにしても,中央アジアの遊牧民は,基本的には文字をもたぬ人びとであった。そのため彼らの間ではすぐれた口承文学が発達し,なかでも〈マナス〉〈アルパムシュ〉などの長大な英雄叙事詩は,口伝えに今日もなおキルギス,カザフなどのトルコ系遊牧民の間に伝えられ愛誦されている。 一方,南部のオアシス定住民の間では,前イスラム時代,シルクロードを経てもたらされた仏教,ゾロアスター教,マニ教,景教といった外来宗教が信奉され,それらの宗教の経典が,ホータン・サカ語,トカラ語など現地のインド・ヨーロッパ語族系の諸言語に訳出された。…

※「マナス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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