イオニア(英語表記)Iōnia

精選版 日本国語大辞典 「イオニア」の意味・読み・例文・類語

イオニア

(Ionia) 小アジア西岸、エーゲ海に面する古代地名。紀元前一〇世紀、古代ギリシアの一種族のイオニア人が移住し、ミレトスサモス等一二の植民市を建設、約四〇〇年間繁栄した。

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デジタル大辞泉 「イオニア」の意味・読み・例文・類語

イオニア(Iōnia)

小アジア南西部のエーゲ海沿岸と、その付近の諸島一帯の古称。前10世紀ごろから古代ギリシャ人が移住して、ミレトス・サモスなどの植民市を建設、芸術・哲学が栄えた。現在はトルコ領。

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改訂新版 世界大百科事典 「イオニア」の意味・わかりやすい解説

イオニア
Iōnia

小アジア西岸の中央部,北はヘルモス川によってアイオリス地方と接し,南はマイアンドロス川流域南部を境としてドリス地方に接する,古代ギリシア世界の一地方。キオス,サモスなど前面の島々をも含む。古代オリエントの地を東に控え,常に政治的・軍事的脅威にさらされながらも,他方,交易や文化の面では地理的恩恵を受け,ことに前8世紀から前6世紀にかけて,ギリシアの先進地帯としての地位を維持した。この地方にギリシア人が本格的に進出し,定住したのは,ギリシア本土においてミュケナイ文明が崩壊したのち,前10世紀以降のことである。伝承によれば,アテナイの王族の一人ネレウスが避難民を含むアッティカ在住の人々の一部を率いて海を渡り,この地方への植民を行ったという。植民活動は,その後もイオニア系ギリシア人によって波状的に行われ,前8世紀半ばには,ギリシアの他の地方に先がけて,キオス,サモス,ミレトス,プリエネエフェソスといった諸ポリスの成立を見る。ホメロスの詩編は,このころイオニアで成立したと推定されている。

 前7世紀に入り,イオニア諸市は海外への植民活動を開始する。なかでもミレトスによる黒海沿岸への進出は著しい。海外における多数の植民市の建設は,イオニアを中心とする交易のいっそうの活発化をもたらした。前7世紀後半,東方に接するリュディア王国のそれにならって,イオニアで初めてギリシア貨幣が鋳造されたのも,偶然ではない。活力に満ちた環境は,また知的創造をうながし,前6世紀のイオニアは,ミレトスを中心に文化の最盛期を現出する。抒情詩アナクレオン,哲学のタレスアナクシマンドロスアナクシメネス,歴史のヘカタイオスといった人々が,この時期に輩出しているが,とりわけタレスをはじめとするミレトス学派の自然哲学者たちが,オリエント由来の自然にかんする経験的知識や宇宙観を基に,この世界を動かす原理(アルケー)は何かを探り,ギリシア哲学の源流を形づくった意義は大きい。

 しかしイオニアの地は,とりわけ前6世紀以降,オリエントの専制王国の支配を受けるようになる。リュディアとペルシアによる支配がそれである。前5世紀初頭に起こったイオニア諸市の対ペルシア反乱と,それにつづくペルシア戦争の結果,イオニアはいったんペルシアの専制支配から解放されるが,前5世紀末,ペロポネソス戦争末期以後,スパルタとの連合により,この地方にふたたびペルシアの支配が復活する。ヘレニズム時代,イオニアはアレクサンドロス大王の帝国,マケドニア王国,プトレマイオス朝エジプト,セレウコス朝シリア,ペルガモン王国,共和政ローマといった大国の干渉と支配に相次いで服しながら,概して経済的繁栄を保った。とりわけローマ帝政期に入ってのちエフェソス,ミレトスなどの諸市の繁栄は著しく,豊富な遺跡が往時の面影を今日に伝えている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イオニア」の意味・わかりやすい解説

イオニア
Iōnia

アナトリア(小アジア)西岸中央部とその周辺の諸島をさす古代ギリシアの地方名。前1200年以前からヒッタイト王国と接触,ギリシア人からはアシアス(アジア)と呼ばれた。おそらくアカイア王国の崩壊でアッチカ方面からイオニア系ギリシア人が東遷,その名を地名として残した。前8世紀からエフェソスミレトス,キオス,サモスなど 12主要都市が興り,宗教的な汎イオニア連盟が成立し,オリエントとの交流で学芸が栄えた。前700年以降,黒海からスペイン沿海地方に植民し,そのためリュディアと争い制圧され,次いでアケメネス朝ペルシアの支配下に入った。前499年頃反乱して失敗したが,これがペルシア戦争の原因となった。前5世紀にはアテネ,スパルタに服し,前387年ペルシアに提供された。アレクサンドロス3世治下では名目上独立を保ったが,前2世紀ローマの属州アシアとなり,ビザンチン帝国治下でも,エフェソス,ミレトス,スミルナ,キオスなどは世界的都市として繁栄した。

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百科事典マイペディア 「イオニア」の意味・わかりやすい解説

イオニア

古代ギリシア世界における小アジア西岸の一地域。イオニア人の移住によりミレトスエフェソスをはじめとする都市が成立して次第に繁栄,前7世紀以降多数の海外植民市を建設。前6世紀ペルシアが支配,のちマケドニア,ローマ,ビザンティンなどの支配が続き,現在トルコの一部。ホメロスの詩編の故地にしてギリシア哲学発祥の地。
→関連項目ヒッポダモスプリエネ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イオニア」の意味・わかりやすい解説

イオニア
いおにあ
Ionia

古代ギリシアの地域名で、小アジア西岸の南北約150キロメートルに及ぶ帯状の地域。紀元前1000年ごろにアテナイ(アテネ)を中心とするイオニア系のギリシア人により植民が行われ、前8世紀後半にはミレトス、キオス、サモスなどのポリスが形成された。同じころ、この地においてホメロスの二大叙事詩がまとめられている。この後ギリシア世界の先進地域として発展し、植民市建設にも積極的に参加した。前600年ごろにはミレトスのタレスにより哲学が創始された。前6世紀に入ると、リディア、のちペルシアの支配を受け、前5世紀初めには反乱を起こすが失敗した。これがペルシア戦争の発端である。この後解放されたイオニア諸市の大半はデロス同盟に加わった。前386年には、名目的ではあるがふたたびペルシア支配下に置かれ、アレクサンドロス大王の東征後はマケドニア、のちにペルガモンの領土に編入され、前133年にローマの属州とされた。

[前沢伸行]

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旺文社世界史事典 三訂版 「イオニア」の解説

イオニア
Ionia

小アジアの西部沿岸と付近の諸島の総称
ギリシア人の植民がいち早く行われ,前10世紀の半ばごろには,すでにイオニア都市国家(ミレトス・エフェソス・サモスなど)が成立した。早くから先進オリエント文明に接し,商工業・貿易・学問(イオニア学派など)・芸術はギリシア本土より早く発展した。オリエントとの通商の要地であったため,諸民族の抗争の地となった。まず,前492年に起こったペルシア戦争では,アテネとデロス同盟を結んだが,のちアケメネス朝(ペルシア)の支配下にはいり,ヘレニズム時代〜ローマ時代には国際的都市として商業が発達した。のち,イスラーム諸王朝の進出に続いてセルジューク朝の支配下にはいり,一時ビザンツ帝国が回復したが,14世紀後半からオスマン帝国の勢力下にはいり,ヨーロッパと切り離されて今日に至っている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「イオニア」の解説

イオニア
Ionia

アナトリア西岸の中部地帯の古代の名称。伝承によれば,この地方にはドーリア人がギリシア本土に南下してきたとき,アッティカ地方の人々が移住してミレトス以下多くの都市を建設した。古代オリエントの先進地帯との交流の結果,イオニアでは早くから文化が興り,ことにミレトスタレス以下の学者により「イオニア自然哲学」が生まれたので知られる。

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世界大百科事典(旧版)内のイオニアの言及

【イオニア学派】より

…小アジアの沿岸に位置するギリシアの植民地イオニアはペルシア,バビロニア,エジプトなどの先進諸国と接触し,経済的にも文化的にも早くから栄えた。世界の本性,構造についてはじめて,完全に合理的な説明が試みられたのは,哲学の発祥地たるこの地方においてであった。…

【ギリシア科学】より

…古代ギリシア文化圏において形成され,ビザンティン,アラビア,中世ヨーロッパおよびルネサンスへと伝承されたほぼ2000年にわたる歴史をもつ。
[ギリシア科学の形成と展開]
 古代ギリシア科学は,前6世紀に小アジア沿岸の植民地イオニアに誕生した。ここはオリエントの先進文明圏に接しており,そこから多くの文化遺産を受け入れたが,オリエントとは一線を画する新たな知の形態がつくり出された。…

※「イオニア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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