日本大百科全書(ニッポニカ) 「イトヨ」の意味・わかりやすい解説
イトヨ
いとよ / 糸魚
three spined stickleback
[学] Gasterosteus aculeatus
硬骨魚綱トゲウオ目トゲウオ科に属する魚のうち、背びれに5本以下の棘(とげ)をもつ種の総称。日本のイトヨには日本海系、太平洋系降海型および太平洋系陸封型の3系群があり、これにハリヨを加えた4系群が認められている。太平洋系降海型Gasterosteus aculeatus aculeatus以外は学名が確定していない。水草を集めて巣をつくることで有名な魚で、雄が糸状の粘液を出して巣を固めるのでこの名がある。北半球の亜寒帯から温帯にかけて広く分布し、日本では、降海型(成長ののち海に下るもの)は下関(しものせき)以北の日本海各地と利根川以北の太平洋の日本各地に、陸封型(成長しても淡水にとどまるもの)は北海道の大沼と阿寒(あかん)湖、青森県、福島県会津盆地、福井県大野盆地、栃木県那須(なす)などの湧水池や細流にすむ。背びれに3本、腹びれに1対の強い棘があり、鰓蓋(えらぶた)の後から尾びれ基底まで鱗(りん)板が連続して並ぶ。降海型は産卵期以外は海で生活する。体が細長く、背びれ棘(きょく)に鰭膜(きまく)がないか、あっても基部近くに限られる。体長は10センチメートルほどになる。陸封型は一生淡水で生活する。体は高く、背びれのひれ膜は棘の先端まで達する。体長は7センチメートルほどにしかならない。両型ともに1年で成熟する。
雄は水底にくぼみを掘り、水草や落ち葉を集め、腎臓(じんぞう)から出る粘液でそれらを固めて巣を作る。雌を見つけると、ジグザグダンスと言われる求愛行動で雌を巣に導き入れ、産卵させる。雄は直ちに巣に入り放精する。ほかの雄の進入に対して攻撃を加えるが、その引き金となるのは、のどから腹部にかけてみられる赤色の婚姻色である。赤色であれば、どんなものに対しても強く反応する。雄は胸びれを使って新鮮な水を卵に送り、仔魚(しぎょ)が巣を離れるまで外敵から守る。雌は産卵後、雄は仔魚の保護を終えた後死ぬ。降海型では稚魚は7~9月ごろに川を下りて海洋生活し、翌年2月ごろから遡上(そじょう)を開始する。
陸封型は水温が15℃前後の小川や水田の溝などにすみ、各地で天然記念物に指定されている。生育環境の悪化で、絶滅のおそれのある地域個体群に指定されている地方もある。その一方で、遡上期のものを捕らえて、から揚げやてんぷらにする地方もある。
[落合 明・尼岡邦夫]