イノデ(読み)いので

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イノデ」の意味・わかりやすい解説

イノデ
いので / 猪手
[学] Polystichum polyblepharum (Roem.) Pr.

オシダ科の常緑性シダ。太い塊状の根茎から、長さ1メートルを超すこともある披針(ひしん)形の葉を放射状に束生する。葉柄は葉身の約2分の1、基部には褐色黒褐色、または赤褐色の披針形で、長さ2センチメートルほどの大形の鱗片(りんぺん)が密生する。中軸の鱗片は毛状。鱗片の縁(ふち)には不規則な鋸歯(きょし)状の突起がある。葉身は2回羽状に分裂し、深緑色で表面に光沢があり、堅い草質。小羽片の裏には毛状鱗片がつき、先は芒(のぎ)状に伸びる。胞子嚢(ほうしのう)群は円形で、丸い盾状の包膜をもつ。分布は関東地方以西の本州四国、九州にかけ、平地から低山地によくみかける。近縁種の分類には葉柄基部の鱗片が重要である。東北地方から四国までの太平洋岸に分布するアスカイノデは、鱗片にほとんど鋸歯がない。ツヤナシイノデは、葉柄基部の鱗片は卵形、中軸にも広卵形の鱗片がある。近縁サカゲイノデでは、中軸の鱗片が下向きにつく。ツヤナシイノデは関東以西の本州、四国、九州、サカゲイノデは九州にはなく、北海道から本州にかけて寒い所に分布する。ともに陰湿な山林下に生える。カタイノデは、葉柄基部の鱗片が披針形ないし広披針形で、光沢のある黒褐色。縁には淡褐色の縁取りがある。関東以西の本州、四国、九州の山林下に生育する。サイゴクイノデは、カタイノデに似るが、葉は1メートルに達し、光沢がなく、胞子嚢群は縁に偏る。本州では中南部と北陸、四国、九州などに分布する。イノデの仲間は栽培が比較的容易で、庭植えにされることもある。

[西田治文]


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改訂新版 世界大百科事典 「イノデ」の意味・わかりやすい解説

イノデ
Polystichum polyblepharum (Roem.) Pr.

山形県以南の暖地に普通のオシダ科の常緑性多年生シダ植物。根茎は太くて直立し,多数の葉を漏斗状に叢生(そうせい)する。葉は狭披針形から長楕円形,2回羽状複生,下部の羽片はやや逆行する。葉柄や中軸には褐色から赤褐色の鱗片が密生し,下部のものほど大型になる。猪の手の名は,この葉柄の印象に由来する。葉は硬い草質,黄緑色で光沢がある。小羽片は鋭頭から鈍頭,鋸歯の先端は芒(のぎ)状にのび,しばしば鎌形にまがる。胞子囊群は小羽片の中肋と辺縁の中間につき,包膜は楯形で,若い葉ではこうもり傘状に胞子囊群をおおう。イノデ属Polystichum(英名shield fern)は世界に200種以上が知られ,日本にも約30種を産するが,種間雑種も自然界に多く,その分類はかなりむずかしい。イノデは低地の好陽地性の種で,朝鮮から中国大陸にも分布している。サカゲイノデP.retroso-paleaceum(Kodama)Tagawaは温帯性で,九州以南を除く日本と,千島,朝鮮に分布する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イノデ」の意味・わかりやすい解説

イノデ(猪の手)
イノデ
Polystichum polyblepharum

オシダ科の常緑性シダ植物。東北地方より西の暖地の平地から低山地に生える。朝鮮半島にも分布している。葉は大きな塊状の根茎に密につき,四方に展開する。長さ 50~100cm。葉身は長楕円形で,2回羽状に分裂する。小羽片は先端がとがり,縁には先が毛になった鋭い鋸歯がある。葉の中軸と葉柄には淡褐色または赤褐色の膜質の鱗片が密生し,基部のものは大きく,長さ 2cmにもなり,上部では毛状に近い形となる。胞子嚢群は円形で,楯形の包膜をもち,小羽片の上半部に中肋と縁の中間に並ぶ。和名は密に鱗片をかぶった若い葉を,イノシシの手になぞらえたもの。

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百科事典マイペディア 「イノデ」の意味・わかりやすい解説

イノデ

オシダ科の常緑シダ。本州中南部〜九州に多く,林の下などにはえる。茎はやや大型,塊状で,葉は放射状に広がって出,光沢のある濃緑色で,長さ30〜100cm,2回羽状複葉。葉柄や葉裏などには褐色の鱗片が多い。日本にはサイゴクイノデ,ヤシャイノデなど近縁種が非常に多く知られている。

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