インフレーションにより自分の資産の実質価値が減少することを防ぐために行う投資,あるいはその対象になる資産をさす。ヘッジとは,完全に予見できないリスクから資産を守るために行う取引を意味する。
家計は,資産のかなり大きな部分を,定期預金などの金利が固定されている金融資産で保有しているのがふつうである。そこで,もし予期しないインフレが起こった場合,元本がインフレにより減価する分だけ,こうした固定金利金融資産の生む実質利子率は低下してしまう。また,たとえインフレが予想されており,かつ表面的には金利が固定されていない金融資産であっても,もし金利規制等により名目利子率の上限が決められていると,インフレ率の上昇に伴い,ある点から実質金利は低下しはじめる。
こうした理由から家計や企業は,インフレの起こる可能性が高いと判断した場合,金融資産の保有を減らし,債務を増加させて,不動産や貴金属,骨董(こつとう)品等の実物資産(物的裏付けのある資産)を購入する現象がしばしばみられる。この結果,インフレが実際に進行していく過程で,住宅建設ブームや土地投機ブームが起こったり,金やダイヤ等の価格が騰貴したり,あるいは書画,骨董品,切手等の市場がブーム状況を呈することになる。
株式については,企業の保有する実物資産によってその価値が裏付けられていることから,インフレ・ヘッジになると考えられてきた。しかし,最近の実証研究では否定的なものが多く,その理由として,投資家がインフレによる債務の実質減価を必ずしも評価しないことや,法人税法の減価償却制度が取得原価に基づいていることなどが挙げられている。
→インフレーション
執筆者:小椋 正立
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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