〈董〉は奥深く蔵することをいい,〈古董〉とも書かれて,愛玩すべき古物を指した。また中国では古く,細かなものを入れ混じえる意もあり,魚や野菜を種々混ぜ合わせた煮物汁を〈骨董羹〉,五目飯のような混ぜご飯を〈骨董飯〉と呼んだことが知られる。明代の文人董其昌の《骨董十三説》に,骨董と呼ぶべきものとして金,玉,書画墨跡,石印,鐫刻(せんこく),窯器,漆器,琴,剣,鏡,硯(すずり)などがあげられており,日本で用いられてきた骨董の語もおおよそこの意味に沿いながら,日本的に変容されたものというべきであろう。
江戸時代には今日いう美術品の主流は茶道具(茶器)であり,一般にはもう少し雑多なものを含めて〈道具〉と呼ばれた。江戸時代後期から明治にかけて中国明・清の文人画や煎茶,また文人趣味が流行し,明治に入ってのち中国の古書,古碑の拓本などの史料や金属,石,玉等で作られた器物,彫刻などを愛玩する古玩趣味が生まれて,骨董の語が広く用いられ,道具と呼ばれていたものをも包含するようになった。昭和以降,ことに第2次大戦後はヨーロッパの美術が普及するとともに,その鑑賞主義,価値観が広まり,骨董に代えて古美術あるいは美術品と総称する観念が行きわたっている。しかし今日なお,道具でも古美術でもなく,特に骨董と呼ばれているものもある。〈書画骨董〉という語は,日本ではおそらく明治末期以降に使われるようになったと考えられるが,この場合の〈書画〉は古書画であり,〈骨董〉は書画を除いたいわゆる古器物を指す。具体的には古い陶磁や漆器,木竹,金属,石,玉,ガラス,象牙等の器物,彫刻,また染織品などである。現代でも実際に,こうした書画以外のものを指すことが多い。一方,第2次大戦後,〈古美術骨董〉という使われ方も一部なされるようになった。〈書画骨董〉に対して古書画を〈古美術〉,古器物を〈骨董〉というのである。すなわちこの場合は,骨董は美術ならぬもの,あるいは美術の下に置かれるものを意味する。絵画,彫刻,版画,工芸と序列づけるヨーロッパ風な美術観念の反映と思われる。ここからまた,骨董趣味という語が万事古臭く不健全な玩物趣味を指し,骨董品という語には古玩物のほかに時代遅れのもの,さては時代錯誤のものという語感が込められるようになった。
日本では伝統的に,書画もしくは軸物と器物という,茶道に発した美術品の分類がある。絵画を美術の最上位に据え,古器物を美術の下に置く観念は,少なからず日本の伝統的な美術に対する観念を混乱させているといえよう。茶道においては器物,書画は同じ価値観をもってとらえられ,ややもすると器物が上位にさえ置かれてきたのであり,骨董を非美術あるいは亜美術とする考えは,少なくとも日本の伝統的な美学に合致するとはいえない。骨董はまた,語そのものも中国に発しており,中国で作られた古器物,古玩品を指す場合,日本人には特に適切なひびきを感じさせるのもたしかであろう。
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執筆者:白崎 秀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
もとはごたごたしたつまらないもののことであるが、美術的な書画、刀剣、陶器などをいう。これら古人が使用したものを文人たちが実用と愛玩(あいがん)のために文房具として座右に置く風習は日本では室町時代からおこり、江戸中期ころからそれらを骨董とよぶようになった。明治には古い伝世の美術工芸品を骨董と総称し、それらを販売する古物(こぶつ)屋を古道具屋または骨董屋とよぶようになった。現代では絵画の類を別にし、器物の類だけを骨董として扱う傾向がある。
[永井信一]
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