翻訳|imperator
古代ローマで軍指揮権を帯びた公職者の汎称。ほかに戦功抜群の軍指揮者が兵士らに〈おおインペラトル〉と歓呼されることがあり,たいてい凱旋式を許されるが,国法上は単なる称号で特定の公職ではない。そのため共和政期末の超国法的強権取得者,スラ,ポンペイウス,カエサル等が好んでこの称号を名乗った。アウグストゥスはインペラトルをプロコンスル命令権(軍指揮権)取得者と見なし,これを自らの個人名に組み入れたが,ウェスパシアヌス以降その先例が定着してインペラトルは皇帝をさす公称になった。この場合,常に決定的なのは〈おおインペラトル〉という元老院での斉唱,後には兵士の歓呼で,そのため3世紀には帝国各地の軍団兵士の喚声が皇帝併立の事態を生んだ(軍人皇帝時代)。4世紀にドミヌス・ノステルdominus noster(〈われらの主〉の意)が皇帝の公称になるが,インペラトルは広く慣用され,中世に及んだ。近代語のエンペラーemperor(皇帝)等の語源。
→インペリウム
執筆者:鈴木 一州
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古代ローマにおいて用いられた称号。ローマでは、司令官が、戦勝のあと、兵士によって「インペラトル」と呼びかけられると、その司令官は任期中あるいは凱旋(がいせん)式挙行までの期間、この称号を帯びた。語義は「インペリウム」保持者。最初の確実な例は、紀元前189年にみいだされる。共和政末期には軍事的権威を意味する称号となり、カエサルはこれを永続的に用いた。初代皇帝アウグストゥスは、皇帝としての正式名“Imperator Caesar divi filius Augustus”の冒頭にこれをつけ、以後、最高権力を表す称号として用いられるようになった。しかし、戦勝将軍の称号としての用法も存続し、皇帝は部下の将軍の戦勝の栄誉を自己のものとして数え、正式称号の末尾に「インペラトル何回」というふうにつけた。英語のemperorの語源である。
[弓削 達]
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…たとえば,ギリシア語のbasileus,basileōn,ペルシア語のshāhānshāhに相当)のようなものがあるが,中世以来ヨーロッパで問題となる,王に優越するものとしての皇帝という名称はローマ帝国に由来する。その場合,ロマンス語およびケルト諸語ではインペラトルimperator,ゲルマン語およびバルト・スラブ語ではカエサルcaesarという,いずれもラテン語の名称が用いられている(ギリシア語については,以下の(3)参照)。(1)imperatorは,〈命令する〉を意味するラテン語imperareに由来し,最初は主として軍隊に対し最高の指揮権をもつ者を指し,アウグストゥスによって,その称号の一部として(imperator caesar)用いられるようになった。…
…たとえば,ギリシア語のbasileus,basileōn,ペルシア語のshāhānshāhに相当)のようなものがあるが,中世以来ヨーロッパで問題となる,王に優越するものとしての皇帝という名称はローマ帝国に由来する。その場合,ロマンス語およびケルト諸語ではインペラトルimperator,ゲルマン語およびバルト・スラブ語ではカエサルcaesarという,いずれもラテン語の名称が用いられている(ギリシア語については,以下の(3)参照)。(1)imperatorは,〈命令する〉を意味するラテン語imperareに由来し,最初は主として軍隊に対し最高の指揮権をもつ者を指し,アウグストゥスによって,その称号の一部として(imperator caesar)用いられるようになった。…
…15~16世紀以降のロシアの君主をさす言葉。日本では英語のczarにより,ツァーともいう。ロシア語ではほかにバビロニア,ローマなどの古代国家や東方諸国の君主をさすのにも使われ,この場合にはヨーロッパ諸国の国王をさすコローリとほぼ同義である。ツァーリは語源的には古代ローマのカエサルCaesarのくずれた形で,これは直接西方からロシア語に入ったという説と,ビザンティウム(ギリシア語)・バルカン(ブルガリア語)経由説とがある。…
※「インペラトル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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