インペリウム(英語表記)imperium

翻訳|imperium

改訂新版 世界大百科事典 「インペリウム」の意味・わかりやすい解説

インペリウム
imperium

古代ローマの最高公職者権限の総称。〈命令権〉と訳す。平時戦時を通じる市民統率の全権で,古くは王に,共和政期では特にコンスル執政官)とプラエトルにクリア民会で賦与された。命令権保持者は国事全般を主導し,軍指揮や市民懲戒の強権を持つが,市民のプロウォカティオ(民会裁判請求)に制約された。他方,共和政期には命令権を持つ公職者が常に複数で,分割不能な統一的全権の競合をきたすため,両コンスルの場合は交互に命令権を休止し,交替で執務した。また諸プラエトルの命令権は事実上,裁判ないし属州統治の職務に限定されるので,コンスル命令権より下級とされた。後に国法上は非公職者のプロコンスル,プロプラエトルも属州総督に任じられ,公職から分離した命令権が国制に定着し,やがて帝政への道を開いた。全属州に及ぶ上級プロコンスル命令権の取得と属州軍の掌握がアウグストゥス以下,元首の権力基盤をなしたからである。後になるとこの語は,このような命令権の行使される領域をも意味するようになって〈ローマ帝国Imperium Romanum〉の表現で用いられ,後世の帝国主義imperialismの語源となった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インペリウム」の意味・わかりやすい解説

インペリウム
imperium

命令権の意。古代ローマにおける最高行政権力で戦時指揮,法律解釈,執行権などを含み,国王に与えられたが,共和政期には執政官 (コンスル ) ,独裁官 (ディクタトル ) ,護民官 (トリブヌス・プレビス ) ,さらに特殊な使命を帯びたプロコンスルプロプラエトル高官元老院の承認を経て与えられた。しかしその適用範囲は次第に制限され (王政から同僚コンスル制,プロボカティオ権の確立,拡大。前高官のインペリウムは属州に限られるなど) ,期限も1年または特定の任務が終るまでとされた。前2~1世紀の内乱期には,複数のインペリウムをもつ者が争ったり,ポンペイウス (大ポンペイウス) のようにその権威によって3年にわたってインペリウムを与えられる者も出た。皇帝アウグスツスにいたってインペリウムは統一され,プロコンスル護民官命令権として前 27年から連年賦与され,国制にとらわれないアウグスツスの「権威」を支えることとなった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「インペリウム」の意味・わかりやすい解説

インペリウム
いんぺりうむ
imperium ラテン語

古代ローマの国制における、最高の包括的な行政的執行権。一般に「命令権」と邦訳される。軍司令権も、ローマ市民に対する死刑執行を含む法の執行権もこれに含まれた。共和政初期には、インペリウムはコンスル(統領または執政官)とプラエトル(法務官)にだけ帰属する絶対権であったが、しだいに他の政務官マギストラトゥス)にも与えられるようになり、またローマ市民が即決の死刑執行から守られるようになって、絶対権も弱化した。インペリウムの付与は初め原則として1年期限で与えられたが、共和政末期には延長される例が現れた。初代のローマ皇帝アウグストゥスの「皇帝」権力も、このインペリウムによって構成された。

[弓削 達]

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世界大百科事典(旧版)内のインペリウムの言及

【領土】より

…国家は,領土内にあるいっさいの人と物を,その国の国民であるか否かを問わず,排他的に支配することができ,また,領土そのものを排他的に使用し,占有し,または処分することができる。国家が領土に対してもつこのような権能を,領土権または領土主権とよぶが,それは,領土内の人・物に対する法的支配の権能(統治権――インペリウムimperium(ラテン語))と領土に対するいわば土地所有権的な権能(領土の使用・処分権――ドミニウムdominium(ラテン語))より成り立つ。国家の領土権,とくにそのドミニウム的側面は,歴史的にローマ法の私人の土地所有権の制度の影響を強く受けてきており,今日でも領土の得喪・変更に関する国際法規則にこの点がうかがえる。…

【コンスル】より

…前509年の共和政成立以降,毎年2名が選ばれたという。ケントゥリア民会の選挙後,コンスルはクリア民会でインペリウムを受け,先導リクトルの斧と棒に生殺与奪の大権を示しつつ民政,軍事,祭祀,民会・元老院の開催等,国政全般を主導した。下位公職者への干渉権,市民懲戒の強権も帯びながら在任中は弾劾を免れ,元老院,護民官の掣肘と1年任期,同僚制の厳守が専制を防いだ。…

【プラエトル】より

…前366年,母市プラエトルが設けられて市民間の訴訟を担当し,前242年に市民・外人間の訴訟を扱う外人係プラエトル,前227年に属州シチリア,サルディニア担当のプラエトル2名を加え,最終的に定員18名になった。いずれもケントゥリア民会で選挙され,くじで職務分担を決めるが,初期に2属州の総督職兼務とか母市プラエトルの外征や外人係プラエトル職兼務がまれでないのは全員がインペリウムを帯びたためである。それがコンスル命令権と競合せぬようプラエトルは命令権行使に実務的制約を受け,序列も下位にみられた。…

【卜占官】より

…不時の予兆も解く。卜占権はインペリウムに属し,最高公職者は就任にも民会召集・外征などの国事にも,そのつど占卜官に凶兆の有無を探らせ,神意にかなう行動を期した。古くは貴族3名,前300年から平民を含む9名が推薦により就任し,後に17トリブスで選挙された。…

【領土】より

…国家は,領土内にあるいっさいの人と物を,その国の国民であるか否かを問わず,排他的に支配することができ,また,領土そのものを排他的に使用し,占有し,または処分することができる。国家が領土に対してもつこのような権能を,領土権または領土主権とよぶが,それは,領土内の人・物に対する法的支配の権能(統治権――インペリウムimperium(ラテン語))と領土に対するいわば土地所有権的な権能(領土の使用・処分権――ドミニウムdominium(ラテン語))より成り立つ。国家の領土権,とくにそのドミニウム的側面は,歴史的にローマ法の私人の土地所有権の制度の影響を強く受けてきており,今日でも領土の得喪・変更に関する国際法規則にこの点がうかがえる。…

※「インペリウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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