ウイキョウ(読み)ういきょう(英語表記)fennel

翻訳|fennel

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウイキョウ」の意味・わかりやすい解説

ウイキョウ
ういきょう / 茴香
fennel
[学] Foeniculum vulgare Mill.

セリ科(APG分類:セリ科)の多年草。とくにスパイスとして用いられる種子をさしてフェネルフェンネルともよばれる。全草に特有の香気がある。茎は緑色、円柱形で、高さ1~2メートル、上部で分枝する。その形態は同じセリ科のディルイノンド)と似ていて間違えられやすい。葉はやや白っぽい緑色で、糸のように細く分かれ、柔らかい。夏に茎上部の葉腋(ようえき)から花序を出し、多数の黄色い小花を傘状につける。花弁5枚、雄しべ5本、雌しべ1本。果実は7~10ミリメートルの長円形で、1本の果柄に2個が互いに平らな面をあわせてつく。地上部は霜にあうと枯れ、地下部が生き残る。原産地は南ヨーロッパから西アジアで、今日では世界中に分布する。

 ウイキョウは古代エジプトで栽培され、古代ローマでは若い茎が食用とされた。中世ヨーロッパで、特異な香りと薬効のため魔法の草として知られ、しだいにフランス、イタリア、ロシア料理に不可欠な香辛料(スパイス)となった。地中海マルタ島が産地として著名で、インドでも生産や利用が多い。中国へは4、5世紀に西域から伝わり、日本へは9世紀以前に中国から渡来した。現在は薬用として、長野、岩手、富山県で栽培されている。

[星川清親 2021年11月17日]

食用

若葉はハーブとして利用し、種子はフェネル(フェンネル)またはフェネルシードと称し、スパイスとして肉料理や魚料理によくあい、サラダやケーキに混ぜたり、リキュールの着香料にもする。ウイキョウは、魚肉の香りを回復させるという意味の中国語名「茴香」の音読みからきている。

[星川清親 2021年11月17日]

薬用

果実を乾燥したものを漢方では茴香、小茴香といい、アネトールを主成分とする精油を約6%含有するので、芳香性健胃、駆風(くふう)(腸内ガスの排出)、去痰(きょたん)、利尿、通経(不順月経の来潮促進)、催乳剤として用いる。精油中にフェンコン(英語でfenchone、ドイツ語でFenchon)を含有するものは樟脳(しょうのう)様の味がするので、これを苦(く)茴香ということがあり、日本、中国で栽培しているのはこの種類である。ヨーロッパでは、フェンコンを含まず、アネトールの甘い味が強い甘(かん)茴香を栽培している。いずれも胃カタル腹痛の家庭薬として健胃散によく用いられる。また水蒸気蒸留によって茴香油をつくり、これをアルコールに溶かし、アンモニア水を加えたアンモニア茴香精は、小児、老人の無熱性気管支カタルの去痰剤として用いる。

[長沢元夫 2021年11月17日]

栽培

移植を嫌うので、日当り風通し、排水のよい肥沃(ひよく)な場所に直播(じかま)きする。雑種を避けるため、ディルの近くには植えない。トマトや豆類とは相性が悪く、近くに植えると成長を妨げるといわれている。

[森田洋子 2021年11月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ウイキョウ」の意味・わかりやすい解説

ウイキョウ (茴香)
Foeniculum vulgare Mill.

フェンネルfennelともいう。セリ科の多年草。草高1~2mになり,葉は糸のように細く分かれ,鮮緑色で軟らかい。夏に茎頂や茎の上部の葉のつけねから花枝を出し,多数の黄色い小さな花を,傘形につける。果実は長さ7~10mmの長楕円形で,1本の柄に2個が互いに平らな面を合わせ,対になってつく。秋に果実は茶褐色に熟し,地上の茎や葉は霜にあうと枯れる。南ヨーロッパから西アジア地域の原産。今では世界中で栽培されている。日本へは9世紀以前に中国を経て渡来した。

 全草に特有の芳香があり,とくに果実はにおいが強く,またやや辛みがある。最も古い作物のひとつで,古代エジプトでも栽培された。ローマ時代には若茎が食用とされ,大プリニウスの《博物誌》には,視力を増し,白内障に効くと記されている。中世には魔術の草として知られた。また,しだいにフランス,イタリア,ロシア料理のスパイスとして用いられるようになった。果実は肉類,魚類によくあい,またサラダ,ケーキに混ぜ,リキュールの着香料とされる。地中海のマルタ島産が優れた品質として著名。4~5世紀に西域から伝わった中国では,魚肉の香りを回復するというので茴香と名づけられた。インドでも利用,生産が多い。日本では長野・岩手・富山県などで生産が多い。
執筆者:

果実もウイキョウという。精油を含み,その主成分はアネトールanetholeで,その他種々のモノテルペンからなる。そのほかに脂肪油を含む。芳香性健胃,去痰,駆風薬として,他の薬物と配合して用いられるが,漢方では胸部や腹部の鎮痛薬として応用される。
執筆者:

ウイキョウは古代ギリシア語でマラトンmarathōnと呼ばれ,マラソン競技に名を残すマラトンは,この草の群生地だったことに由来するともいわれる。イギリス,アメリカの教会では近年までこの種子を口に含み,断食の苦しみを和らげる習慣があったようである。カール大帝はこの若芽を食べることを好み,広く北ヨーロッパでウイキョウが栽培される端緒をひらいたと伝えられる。古代ローマでは強精用の食物として剣闘士に愛用された。スペインでも闘牛士がこれを用い,牛を倒したあとは力の象徴としてウイキョウの花輪を頭に飾る。また,この草を金曜日に魚と煮て食べる習慣が,ギリシア時代からあった。魚がもつ粘液質の体液を中和するためと信じられ,占星術においては双魚宮の対極である処女宮の植物とされている。花言葉は〈力〉〈賞賛される価値あり〉である。
執筆者:


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百科事典マイペディア 「ウイキョウ」の意味・わかりやすい解説

ウイキョウ

フェンネルとも。ヨーロッパ原産で温帯各地に広く栽培されるセリ科の多年草。全草に芳香があり,高さ1〜2mに達する。夏,複散形花序をなして多数の黄色小花を開く。果実を乾燥したものは芳香が強く,茴香(ういきょう)といい,スパイスとして利用。また健胃・去痰(たん)薬とし,果実から得られるウイキョウ油は酒やセッケンの香料に使用。秋,苗を定植し,翌年の夏〜秋に収穫。品種のイタリアウイキョウ(フローレンスフェンネル)は軟白した葉や茎を野菜として食べる。
→関連項目健胃薬五香粉生薬フェンネルシーズ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウイキョウ」の意味・わかりやすい解説

ウイキョウ
Foeniculum vulgare; fennel

フェンネル,フェネルともいう。セリ科の多年草で,南ヨーロッパ原産。古くから日本に渡来し,おもに長野,岩手,富山県などで栽培されている。草全体に一種の芳香があり,高さ1~2m,葉は糸状の裂片から成る数回羽状複葉でニンジンに似ている。夏,茎の先に散形花序をつける。花は黄色で小さく,果実は小円柱状で成熟すると2分果に分れる。果実を乾かしたものが局方生薬の茴香 (ういきょう) で,胃薬や感冒薬に使われる。また西洋料理には欠かせない香辛料である。果実からとる精油は石鹸,リキュールなどの香料になる。

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デジタル大辞泉プラス 「ウイキョウ」の解説

ウイキョウ

セリ科の多年草。果実は生薬として使用され、健胃薬、うがい薬などに含有。

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