翻訳|exergy
有効エネルギーともいう。ギリシア語のex(外へ)とergon(仕事)からなる術語である。与えられた環境条件のもとで,ある系から外へ取り出せる最大の機械的仕事をいう。エクセルギーの概念は,19世紀末からあり,最大有効仕事available energyとして研究されていたが,1956年にラントZoran Rantによりエクセルギーという語が提案された。
一般にエネルギーは,仕事に変えうるエクセルギーと,仕事に変わりえない無効なエネルギーであるアネルギーanergyとから成ると考えられる。アネルギーは他のエネルギー形態に変換することはできず,エクセルギーのみが変換可能である。たとえば電気エネルギーは,すべて仕事に変換できるのでエクセルギーのみで,アネルギーはゼロである。100℃の熱源にある100calの熱エネルギーは,周囲温度を25℃とした場合,仕事に変換できるのは20calであり,残りの80calは無効なエネルギーとして環境と同じ温度の熱となる。この場合,100℃の熱100calは,20calのエクセルギーと80calのアネルギーから成ると考えられる。したがって,この熱エネルギーから電気エネルギーに変換できるのは,20calのエクセルギー分のみである。熱力学第1法則といわれるエネルギー保存の法則は,エクセルギーとアネルギーの合計量が保存されることを意味しているにすぎない。エクセルギーは,可逆的に変化する場合のみ保存されるが,自然界で通常起こる不可逆的な変化では,その一部がアネルギーに変化していき,エクセルギーは保存されない。これは,熱力学第2法則をエクセルギーを用いて表現したことに相当する。エクセルギー損失とは,変化過程でアネルギーに変わってしまった量をいう。エネルギーは,種々の変化を経るにつれて,エクセルギー部分がアネルギーへと変化していき,最終的には,すべてアネルギーとなり,それ以上変化できなくなってしまうことになる。エネルギー変換システムにおいて,エクセルギーがどのように他の系に変換され,またアネルギーとして無効になるかを調べることを,エクセルギー解析という。
エクセルギーは,他の通常の熱力学的状態量,すなわちエンタルピー,エントロピー,自由エネルギーなどの組合せによって容易に算出することができる。環境と同じ温度T0(絶対温度),圧力P0にある状態のエクセルギーε0,エンタルピーh0,エントロピーs0,内部エネルギーu0,比体積v0と,温度T,圧力Pの状態にあるときの値をそれぞれ,ε,h,s,u,vとすれば,流れ系においては(1)式,非流れ系においては(2)式の関係がある。
ε=ε0+(h-h0)-T0(s-s0)
……(1)
ε=ε0+(u-u0)-T0(s-s0)+P0(v-v0) ……(2)
通常のエクセルギー解析は,流れ系の場合がほとんどであり,(1)式がよく用いられる。温度Tの熱源にある熱エネルギーQのエクセルギーは,
ε=Q×(T-T0)/T
で与えられる。このことから,同じ量の熱でも,高い温度ほど高いエクセルギーをもつことがわかる。
→エネルギー
執筆者:亀山 秀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
有効エネルギーともいう.ある状態の系が基準系に対して平衡になるまで可逆変化したとき,仕事として取り出すことができるエネルギーをいう.すなわち,エネルギーの質を熱力学第二法則から評価するための関数で,系のエンタルピーおよびエントロピーをそれぞれH,S,基準系のそれぞれをH °,S °,基準系の温度を T0 とすれば,系のエクセルギーは,
ε = H - H ° - T0(S - S °)
により定義される.したがって,エクセルギーの値は基準系の選び方によって異なるが,基準系としては,通常,自然環境と平衡にある状態がとられる.たとえば,酸素は1 atm,298.16 K(25 ℃)の飽和湿り空気中の酸素(0.203 atm)がとられ,この状態の酸素のエクセルギー値をε = 0とする.1 atm,298.16 K の酸素1 mol のエクセルギーは,0.203 atm,298.16 K の酸素1 mol を同温度下で1 atm まで可逆圧縮する仕事に等しく,0.9435 kcal(3.948 kJ)となる.また,298.16 K の熱のエクセルギーは,熱量にかかわらずε = 0である.温度T,熱量qの熱のエクセルギーを定義式から求めると,
となる.すなわち,高熱浴温度T,低熱浴温度 T0 のカルノーサイクルにより得られる仕事に等しい.変化に伴うエクセルギー変化の値は,エクセルギー損失とよばれる.この値は,変化の前後における系のそれぞれのエクセルギー値と系が外界と授受する熱,仕事などのエクセルギー値との代数和から求められる.エクセルギー損失が小さいほど,変化が可逆過程に近いことを示し,可逆変化の場合には0となる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
エネルギーのうちで機械的仕事に転化できる分のことをいい、有効エネルギーともよぶ。これに対し、機械的仕事に転化できない分をアネルギー(無効エネルギー)という。たとえば電気エネルギーはほぼエクセルギーからなるが、熱エネルギーは環境に廃棄されるアネルギーを多く含む。エネルギー転換を行うシステムが、エネルギーをどの程度有効に利用しているかをはかる尺度として用いられる。
[編集部]
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