エチオピア人(読み)えちおぴあじん(英語表記)Ethiopian race

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エチオピア人」の意味・わかりやすい解説

エチオピア人
えちおぴあじん
Ethiopian race

アフリカの角(つの)といわれる東端地方、とくにエチオピア高原ソマリ半島を中心として分布する一亜人種エチオピア人種ともよばれる。いちおうネグロイドに分類されるが、ネグロイドとコーカソイドの中間の特徴をもつ。ネグロイド的特徴としては、やや長頭であること、高身長の傾向、淡ないしは濃褐色の皮膚、幅広い肩と狭い骨盤、すんなりとした体つき、相対的に長い前腕と下腿(かたい)、少ない体毛、ほっそりしたふくらはぎなどがあげられる。一方、コーカソイド的特徴としては、頭髪が極端に縮れてはおらず、ときには波打つ程度のものがあること、唇が比較的薄く、とくにめくれ上がってはいないこと、鼻がすらりと突出し、またその幅が狭いこと、鼻梁(びりょう)はまっすぐか、ときおり凸状であること、直顎(ちょくがく)(顎部や口元が前突しないこと)、ほお骨が突出していないことなどである。たとえば、オリンピックのマラソン優勝者、アベベ選手にみられるように、顔の輪郭はコーカソイド的であるが、体表の色などはネグロイド的である。ネグロイドとコーカソイドの混血児との体形の違いから、エチオピア人種は、ネグロイドへもコーカソイドへも明確には分化しなかった一般的傾向を帯びる人種であると考える学者もいる。一方、先住民であるネグロイドと、北方から侵入したコーカソイドとの混血によって形成され、両方の特徴が比較的等質的に安定したものであるという見方もかなり強い。浅黒い皮膚をしているコーカソイドの個体にわずかでもネグロイドの血統が加わると、往々にしてかなり濃い色の皮膚をもつ混血児が生まれることが知られているが、エチオピア人種の皮膚の色はそれによって説明される。

 典型的なエチオピア人種は、比較的涼しく、曇りがちな高地に住むガラ人とアムハラ人である。これに比べ、ソマリ人やダナキル人は、目や頭髪の色が濃く、体や顔も細い。これは、日差しの一段と強い、暑熱の砂漠地域という居住環境に対する適応型と理解することができる。エチオピア人種を形成すると考えられるコーカソイドは主として地中海人種であり、ネグロイドとの混血率には幅があるとみなされている。ネグロイド的な螺毛(らもう)の保有率は集団によって異なり、ガラ人では70%、アムハラ人で60%であるが、ソマリ人では14%にすぎない。ソマリ人やダナキル人には、いわゆるアラブとの混血の影響がみられる。エチオピア人種は言語学的区分に基づくセム・ハム諸族に相当し、紀元前の昔から近年まで皇帝をいただき、キリスト教化されており、隣接するネグロイド諸集団と自らを区別していた。

[香原志勢]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エチオピア人」の意味・わかりやすい解説

エチオピア人
エチオピアじん
Ethiopian

広義にはエチオピアの住民を,狭義には,エチオピア帝国の支配層を構成したセム語系諸族を意味する。広義のエチオピア人は,民族,言語,形質的に多様であるが,セム語系,クシ語系,その他の人々に大別できる。セム語系は,かつてアビシニア人と総称されたアムハラ族およびティグレ族で,西アジアが起源といわれる。彼らは,紀元前からエチオピア北部に長期にわたって移住し,先住のクシ語系のアガウ諸族,シダモ諸族などと混血して,2世紀にアクスム王朝を建て,さらに南下して,1974年まで続いたエチオピア帝国を建設した。彼らは大麦,小麦,テフなどを栽培する農耕民で,大地主制度を発達させ,その宗教であるエチオピア正教の繁栄は住民の統合に大きく寄与した。国内最大の人口をもつガラ族は,クシ語系であるが,シダモ諸族,アガウ諸族とは別系統に属し,16世紀にエチオピア高原南部の小地域から拡大した。セム語系,クシ語系以外の人々は,主として南西部のブルーナイル川流域奥地に散在し,農耕,牧畜,狩猟を行う。

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