日本大百科全書(ニッポニカ) 「エチカ」の意味・わかりやすい解説
エチカ
えちか
Ethica ordine geometrico demonstrata
17世紀オランダの哲学者スピノザの主著。彼の死後、友人の手で1677年に刊行された。本書は正式の題名を『幾何学的順序で証明された倫理学』といい、スピノザの全体系を文字どおり「幾何学の順序」に従って演繹(えんえき)的に論証する。すなわち、唯一の無限実体、神が存在すること。思惟(しい)と延長とは人間精神に認識可能なその二つの属性であること。神はいっさいの結果を自己の内部に産出すること。したがっていっさいの事物は神の様態にほかならないこと。神は自己の本性の必然性に従って働き、いっさいは決定されていること。観念の秩序および連結は物体の秩序および連結と同一であること。人間精神は諸情念に隷従せざるをえないが、しかし同時に明晰(めいせき)判明な認識によって諸情念に打ち勝つ能力をもつこと。人間は理性によって欲望を克服するとき自由であること。万物を「永遠の相のもとに」、つまり神との必然的な関係においてみるとき、「神に対する知的愛」としての喜悦が生ずること。これは神が自己自身を愛する「神の知的愛」にほかならず、ここに人間の最高の善と幸福とが存すること、などである。
[坂井昭宏]
『畠中尚志訳『エチカ(倫理学)』全二冊(岩波文庫)』