翻訳|oxytocin
脳の視床下部などから分泌されるホルモン。子宮を収縮させたり母乳を分泌させたりする働きがあり、陣痛促進剤として使われている。一方で男女ともに脳内に多くの作用部位があり、安心感や信頼感の確立に関係していることも分かってきた。動物では親子の絆を形成する上で重要な働きがあるとする報告がある。
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脳下垂体後葉ホルモンの一つ。強い子宮収縮作用をもち,分娩時に大きな役割を果たすと考えられている。脳下垂体後葉に子宮収縮作用をもつホルモンが存在することは以前から知られていたが,1953年にデュ・ビニョーV.du Vigneaud(1901-78)らによって,9個のアミノ酸からなるオキシトシンの化学構造が解明され,同年初めて生理活性をもつポリペプチドとして合成された。分子量約1000。脳内の視床下部の室旁核や視索上核で生合成され,神経繊維の軸索を通って脳下垂体後葉に運ばれて貯留され,刺激に応じて分泌される。妊娠末期の子宮はオキシトシンに敏感に反応するようになり,また,分娩が開始されるとオキシトシンが大量に血中に分泌されるとされるが,分娩とオキシトシンの関係は十分解明されていない。しかし,その子宮収縮作用を利用して,分娩の誘発や分娩後の子宮弛緩出血の治療に使われている(分娩誘発法)。
オキシトシンはまた乳汁を放出するのに不可欠なホルモンでもある。乳児が乳首を吸引すると,その刺激が視床下部に伝わり,オキシトシンが分泌され,そのオキシトシンは乳腺腔の周囲の筋繊維を収縮させ,腺腔内の乳汁を乳頭へ押しやり,乳汁の分泌を促す。オキシトシンが欠乏すると,乳腺腔に乳汁が満ちあふれて乳房が張っていても,乳汁は乳頭に放出されないため,乳児は乳汁を口にすることができない。したがって,臨床的には子宮収縮剤のほか,乳汁滞留症,乳房緊張症の治療薬に用いられることもある。精神的ストレスや痛みは乳汁分泌の機構を障害するため,母親が大きな精神的ショックを受けた際などには,突然,乳汁が出なくなることがある。
→乳 →脳下垂体
執筆者:板橋 明
脳下垂体後葉ホルモンには,オキシトシンとバソプレシンの2種があるため,オキシトシン製剤は,合成品のほかに家畜脳下垂体後葉からできるだけバソプレシンを除いた抽出物が用いられている。オキシトシンはペプチド系ホルモンとして合成に成功した最初のものであり,今日では種々の誘導体も医薬品として市販されている。抽出製剤では副作用としてアレルギー反応が現れることもあるが,合成品は非常に副作用は少ない。製剤は通常は注射剤であるが,子宮収縮を調節できる面で点滴がよく行われる。また1-デアミノオキシトシンのような舌下錠もある。
執筆者:川田 純
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
脳下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンの一種で、9個のアミノ酸が重合したものである。
1952年V・デュ・ビニョーにより、ペプチドであることが確かめられた。生理活性をもったペプチドとして最初に化学合成された。語源はギリシア語の「早く生まれる」という意味で、子宮収縮ホルモンとして知られている。発情ホルモン(卵胞ホルモン)の影響下にある出産時の子宮平滑筋の収縮により、陣痛をおこさせ、またプロスタグランジンの合成を促す。さらに乳の分泌を促し授乳に備える。黄体ホルモンの作用を受けている妊娠中の子宮には働かない。標的となる細胞膜上にはオキシトシン受容体とよばれるタンパク質があり、オキシトシンはこのタンパク質と結合し、細胞に作用する。出産時には陣痛をおこさせる薬品として使われることがある。
脳下垂体後葉から分泌されるもう一つのペプチドホルモンであるバソプレッシンは、オキシトシンに比べてわずか1、2個のアミノ酸が入れ換わったものであるが、その生理作用はまったく異なり、血圧上昇ホルモンとして知られ、血圧をあげるほか、腎臓(じんぞう)で水分を再吸収し尿量を調節するために抗利尿ホルモンともよばれる。また、子宮筋の収縮を抑制するというバソプレッシンには3種の受容体が知られている。
[菊池韶彦]
『日本比較内分泌学会編『ホルモンの分子生物学3 生殖とホルモン』(1998・学会出版センター)』
(2014-8-13)
C43H66N12O12S2(1007.19).下垂体後葉ホルモンの一つ.視床下部の細胞体で合成され,軸索輸送によって下垂体後葉に運ばれ,そこから分泌される.ウシ,ブタのものは構造は同じで次のとおりである.
-26.2°(水溶液0.53%).子宮収縮作用と,乳汁分泌作用がある.陣痛促進,分娩促進に用いられている.[CAS 50-56-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このような放出ホルモンまたは放出因子とは逆に,放出を抑制するホルモン,すなわちホルモン放出抑制ホルモンinhibiting hormone(IH)もあり,プロラクチン放出抑制ホルモン(PIH),成長ホルモン放出抑制ホルモン(ソマトスタチン)などがみつかっている。
[後葉と後葉ホルモン]
神経下垂体の後葉からは,オキシトシンoxytocin(OT)とバソプレシンvasopressin(VP)の二つのホルモンが出されるが,これらのホルモンは後葉で生合成され,分泌されるものではない。視床下部にある視索上核や室旁核の神経細胞で産生されたホルモンが,後葉にまでのびた神経突起の中を下降し貯留されたもので,刺激に応じて分泌されるのである。…
…プロラクチンは催乳ホルモンではあるが,その効果発現には,副腎皮質,甲状腺や卵巣などに由来する各種の他のホルモンの関与が必要とされるため,この製剤の適用によってあらゆる場合に催乳効果を上げることは期待しがたい。また,近年,プロラクチンの作用発現には脳下垂体後葉から分泌されるオキシトシンも関係していると考えられるようになった(これは子宮収縮ホルモンであるが,分娩後の乳房に貯留した乳汁を射出させる効果も現す)。精神科領域で用いられる医薬品のうちドーパミンに拮抗する作用をもつ薬物のなかには,男女両性に妊娠と無関係に乳汁分泌を起こすものもあるが,この効果はあくまでその薬の副作用で,治療目的には応用されていない。…
…脳下垂体後葉ホルモンと麦角アルカロイド製剤が用いられるが,最近になってプロスタグランジンも用いられるようになった。脳下垂体後葉ホルモンのうちオキシトシンは,9個のアミノ酸からなるペプチドで,子宮収縮作用が強く(似た構造をもつバソプレシンは血圧上昇作用および抗利尿作用が強い),陣痛の弱いときに分娩促進薬として繁用される。麦角は,ライムギの根に寄生する子囊菌類麦角菌の菌核の乾燥体で,代表的な成分はエルゴタミンとエルゴメトリンである。…
… 母の側についていえば,子が乳首を吸う刺激が神経を介して脳下垂体に至り,脳下垂体前葉からプロラクチンが分泌され,それが乳腺細胞の乳汁分泌を促す。と同時に,脳下垂体後葉からは,乳首を吸われる刺激に加えて,精神的刺激によって(子どもの泣声を聞いたり,子どものことを思い浮かべるだけで),オキシトシンが分泌され,それが血行を介して乳腺細胞群のまわりにある筋上皮細胞に作用して収縮させる。これによって,乳が乳首から射出され(射乳反射let‐down reflex),また子宮の収縮,つまり産後の子宮の復古を促す。…
…双の乳房を切り落とされるという拷問に耐え,一夜にしてもとどおりの胸にもどった彼女の奇跡が,乳の出を促すための祈りの対象となった契機である。 脳下垂体後葉が分泌するオキシトシンには,乳腺や乳管の壁の筋上皮細胞層を収縮させる作用がある。乳児によって乳首を吸われる刺激だけでなく,外出から帰宅してわが子の顔を見たり泣声を聞いたりしても,このホルモンが分泌されるので,乳首から乳汁がほとばしって出てくる(神経内分泌反射)。…
…乳頭と乳輪の皮膚には神経の終末が豊富である。乳児が乳頭を吸うと,この神経が刺激され,興奮は間脳の神経分泌核に達してオキシトシンが下垂体後葉から血中に分泌される。このホルモンが乳腺の筋上皮細胞を収縮させる作用をもつので,乳汁が勢いよく放出されることになる。…
…妊娠中の乳腺では,この管系の先端が細胞分裂して円柱状の分泌細胞となり,分娩後は乳汁の脂肪とタンパク質(カゼイン)を盛んに産生し放出する。乳児が乳頭を吸うと,そこに分布する神経が刺激され,興奮が視床下部に達し,オキシトシンというホルモンが下垂体後葉の血管中に放出される。オキシトシンは血液とともに乳腺に到来し,その筋上皮細胞を収縮させるので,乳腺の管腔内にたまっている乳汁がほとばしり出る。…
…このような放出ホルモンまたは放出因子とは逆に,放出を抑制するホルモン,すなわちホルモン放出抑制ホルモンinhibiting hormone(IH)もあり,プロラクチン放出抑制ホルモン(PIH),成長ホルモン放出抑制ホルモン(ソマトスタチン)などがみつかっている。
[後葉と後葉ホルモン]
神経下垂体の後葉からは,オキシトシンoxytocin(OT)とバソプレシンvasopressin(VP)の二つのホルモンが出されるが,これらのホルモンは後葉で生合成され,分泌されるものではない。視床下部にある視索上核や室旁核の神経細胞で産生されたホルモンが,後葉にまでのびた神経突起の中を下降し貯留されたもので,刺激に応じて分泌されるのである。…
※「オキシトシン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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