改訂新版 世界大百科事典 「分娩誘発法」の意味・わかりやすい解説
分娩誘発法 (ぶんべんゆうはつほう)
methods for induction of labor
人工的に陣痛を起こさせて(陣痛誘発),分娩にいたらしめる操作をいう。一般に正常経過をとっていれば,分娩予定日ころに自然陣痛がついてくるのであるが,母体あるいは胎児が危険にさらされて,これ以上妊娠を持続してはならない場合に実施される。母体が危険にさらされるのは,前置胎盤,常位胎盤早期剝離(たいばんそうきはくり)などによる大出血や,子癇痙攣(けいれん)などを起こした場合である。胎児が危険にさらされる場合は多く,妊娠中毒症重症,心臓疾患,腎臓疾患,膠原(こうげん)病,肝臓疾患,血液型不適合妊娠(Rh不適合で胎児死亡切迫のとき),過期妊娠(予定日より2週間以上経過したとき)などがある。これらの場合は,それぞれの疾患が原因となって,胎盤の働きが低下し,胎児に酸素や栄養を十分に供給することができなくなって,胎児の発育が遅れたり,酸素不足になって胎児死亡の危険にさらされる。一般に予定日以前の分娩誘発が多いので,早産児や体重の低い児(低出生体重児)が生まれることとなり,その場合,出生後の生活力が弱いので,NICU(neonatal intensive care unitの略。集中新生児管理室)で特別に集中管理することが多い。それは,妊娠週数,出産体重,児の状態などによって決まる。
陣痛を起こす方法には薬物を与える方法と理学的方法とがある。薬物とは子宮収縮を起こす陣痛促進剤で,通常オキシトシン(脳下垂体後葉製剤)かプロスタグランジンF2α,E2などが使用される。また理学的分娩誘発法としては,ブジーを用いる方法,ラミナリアによる方法,メトロイリーゼ,コルポイリーゼによる方法などがある。陣痛が誘発されるためには子宮筋が陣痛剤に対して感受性があることが必須条件である。しかし分娩予定日に至らない場合は子宮筋への感受性が必ずしもないから,理学的分娩誘発法によって子宮筋感受性をたかめていく。ブジーはゴム製の管で,卵膜と子宮筋壁の間に挿入されるので,その物理的刺激によって感受性がたかめられていく。ラミナリア杆はコンブ科の海藻でできた杆状のもので,子宮頸管内に数本挿入され,ラミナリアが水を吸収して膨化することにより頸管が拡大され,かつこの部分にあるフランケンホイゼル神経叢が刺激されるので子宮筋の感受性がたかまっていく。メトロイリーゼ,コルポイリーゼはともにゴムの袋で,子宮腔内に挿入され,これが狭い子宮頸管を拡大して外に脱出しようとする作用により,子宮筋の感受性がたかまるのである。このような状態にして陣痛促進剤であるオキシトシン,またはプロスタグランジンF2αを使用すると効果がたかまる。子宮収縮の強弱をよく観察しながら点滴するが,薬剤の流入速度を調節することがたいせつで,もしも一気に薬剤が流入すると,陣痛が強烈になったり,そのための子宮血流量が減少して胎児は仮死になりやすい。そこで点滴速度は,陣痛や,胎児心拍数の変化をみながら調整する。最近,人手不足,夜間の輸血運搬の困難さを避けるために,日中分娩が行われているところもあるが,この場合も陣痛誘発が成功するためには,子宮筋のオキシトシンに対する感受性があること,胎児が成熟しているなどの条件が備わっていることが必要である。子宮筋の感受性があると,分娩時間も短く,安産することが多い。
執筆者:室岡 一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報