日本大百科全書(ニッポニカ) 「バソプレッシン」の意味・わかりやすい解説
バソプレッシン
ばそぷれっしん
vasopressin
オキシトシン(ピトシン)とともに下垂体後葉から分泌されるホルモンで、ピトレッシンpitressinともいう。視床下部の分泌神経ニューロンで生合成され、下垂体にその前駆体であるノイロフィジンとして蓄えられる。抗利尿作用および血圧上昇作用をもち、抗利尿ホルモン(ADH:anti-diuretic hormon)ともよばれる。1と6のアミノ酸残基との間にジスルフィド結合を伴う環状構造をもつ。ブタでは8のアルギニンがリジンである。主として腎臓(じんぞう)の遠位尿細管での水の再吸収を促進し、尿を濃縮させる作用をもつペプチドホルモンである。尿崩症患者では、バソプレッシンが欠乏しているために大量の尿(1日5リットル以上)を排出し、体液が大量に失われて絶えずのどが乾く。欠失したこのホルモンの合成類似体である1-デスアミノ-8-アルギニンバソプレッシンの与薬によって、この欠損症を治療できる。この合成ペプチドは体内での分解速度がバソプレッシンよりはるかに遅いうえに血圧を上昇させることもない。精神的あるいは肉体的ストレス、電気刺激、アセチルコリン、ニコチン、モルヒネなどはバソプレッシンの分泌を増加させ、尿は濃縮されて量が減少する。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]