デジタル大辞泉 「乳」の意味・読み・例文・類語
にゅう【乳】[漢字項目]
[学習漢字]6年
〈ニュウ〉
1 ちち。「乳牛・乳製品/牛乳・搾乳・授乳・粉乳・
2 ちち状の液体。「乳液/豆乳」
3 乳房。「
4 母のちちを飲む年齢。「乳歯・乳児」
〈ちち〉「乳色」
〈ち〉「乳首・乳房」
[難読]
翻訳|milk
哺乳類における乳腺の分泌液で,子の理想的な食物である。乳汁の組成は動物の種類によって異なり,ウシでは乾燥重量で,タンパク質と脂肪がおのおの20%,糖が60%を占める。それぞれの量は,子の成長が早い種類ほど多い。子の体重が生まれたときの倍になるまでの平均日数は,アザラシが5日,アナウサギが6日,イヌが8日,ネコが9日,ヒツジが10日,ブタが18日,ウマが60日であるが,乳汁1l中のタンパク質の量(g)は,アザラシ119,アナウサギ104,イヌ97,ネコ95,ヒツジ70,ブタ37,ウマ20である。乳汁は,子の食物として重要なだけでなく,母親がもつ種々の病原体に対する抗体を子に伝え,乳児が伝染病にかかるのを防ぐ働きがある。
執筆者:今泉 吉典
ヒトは,在胎期間が長く,他の哺乳類に比べて未成熟の状態で出生し,成長速度が遅く,寿命が長いという成長の特性と,母が子と生活を共にして養護し,頻回に授乳するという生活の特性をもっている。これらの特性にあわせて,人乳は他の哺乳類の乳に比べて,低タンパク質,低電解質,高糖質という特徴をもっている。人乳の代りに用いられることの多い牛乳に比較して,量的な組成が異なるのみならず,質的にも,タンパク質は牛乳に比べてカゼインが少なく,乳精タンパク質が多く,脂肪は不飽和脂肪酸を多く含み,カルシウム濃度が低くカルシウム:リン比が小さい。糖質,脂質の量が多いことは,他の哺乳類に比べて大きい脳神経系を養うためのエネルギー源,急速に成長する神経系の構成素材を供給するという意味をもっている。
ヒトの乳腺から分泌される乳汁中には,好中球,食細胞,リンパ球などの生きた細胞が多数含まれていて抗菌作用,免疫作用に携わり,また免疫グロブリン(とくに免疫グロブリンA)を含んでいて,それが腸管における病原体の感染を防ぎ,異物の腸管壁からの吸収をブロックして感染症を予防し,胃腸管を経由するアレルギーの成立を防ぐ。免疫グロブリンAは,出生直後の哺乳量の少ない時期に分泌される初乳中には高濃度に,哺乳量の多くなる成熟乳には低濃度に含まれ,全授乳期を通じて適当量の免疫グロブリンが子に供給される。
人乳の成分は,初乳から成熟乳への移行にともなって変化し,また,毎回の授乳に際しても,飲み始めと飲み終りで変化する。出産後に分泌される初乳は,1ヵ月以後に分泌される成熟乳に比べて黄色みが濃く,高タンパク質で免疫グロブリンや細胞成分に富む。約1ヵ月で乳成分が安定し,以後約1年間の授乳期間中,脂質,タンパク質,糖質,電解質などの主要成分は量的にも質的にもほとんど変化しない。毎回の授乳に際しては,授乳開始時にはpHが低く,脂肪濃度が低い乳が出る。これは,授乳と授乳の間に分泌され,乳管に貯留する乳で,前乳fore-milkとよばれ,1回の授乳量の約1/3を占める。授乳に伴って,乳腺から脂肪濃度,pHが高い乳(前乳に対して,後乳hind-milkとよばれる)が分泌され,それが前乳と混ざりあって,しだいに組成が変わっていく。この脂肪濃度,pHの変化を子が感じとって自然に哺乳を中止し,満腹感覚の未発達な乳児期初期の乳の飲みすぎを調節するのだという仮説がある。
人乳に代わるものとして,かつては牛乳,山羊乳などの家畜の乳や,穀粉汁などが用いられたが,最近では,牛乳や大豆を加工した人工乳が用いられる。おもな人工乳は,牛乳を加工した育児用調製粉乳である。人乳と牛乳の成分の差を縮めるため,タンパク質については全体量を牛乳の2/3程度の濃度に下げるとともに,牛乳タンパク質に牛乳乳精を加えてカゼイン比を下げ,脂肪を植物油などの不飽和脂肪酸に富む脂肪に置換し,乳糖を増量し,電解質濃度を下げるなどの操作をして作られる。しかし,牛乳を原料とする人工乳では,牛乳タンパク質によるアレルギーの成立を避けることができないので,タンパク質を分解してアミノ酸化したアミノ酸乳や大豆乳が,牛乳アレルギー児や,アトピー素因の強い子のために作られている。免疫グロブリンや生きた細胞成分,抗感染物質は,人工乳には含まれていない。
ヒトの子の成長に最も適した乳汁は,当然のことながら人乳であって,それが得られないときには,育児用調製粉乳による人工乳を用いるのがよい。成分の異なる他の哺乳類の乳汁(おもに牛乳ではあるが)は,雑食が可能になってから与えられるべき食品である。
→牛乳 →人工栄養
執筆者:澤田 啓司
日本にはかつて,出産直後の母乳である初乳を〈新乳(あらちち)〉といって捨て,かわりに他の乳児の母親から乳をもらう〈乳合せ〉という風習があったが,感染の機会にもなるので,〈乳合せ〉には通過儀礼としての社会的意義はあるとしても,医学的には有害無益である。J.J.ルソーは乳母(うば)にゆだねずに子を母乳で育ててこそ,親子と夫婦のきずなが固くなり,家庭生活が魅力あるものになると強調した。乳母はヨーロッパにも日本にも古くからいたが,乳の出が悪い場合には,もらい乳をしなければならない場合もあるので,乳母に託することを一概に悪いとはいえない。乳汁分泌の少ない婦人たちにとって,キリスト教圏では聖女アガタが守護聖人となっている。双の乳房を切り落とされるという拷問に耐え,一夜にしてもとどおりの胸にもどった彼女の奇跡が,乳の出を促すための祈りの対象となった契機である。
脳下垂体後葉が分泌するオキシトシンには,乳腺や乳管の壁の筋上皮細胞層を収縮させる作用がある。乳児によって乳首を吸われる刺激だけでなく,外出から帰宅してわが子の顔を見たり泣声を聞いたりしても,このホルモンが分泌されるので,乳首から乳汁がほとばしって出てくる(神経内分泌反射)。ギリシア神話の女神ヘラの乳首がヘラクレスに吸われて乳をほとばしらせ,〈天の川〉(ラテン語でVia lactea,英語でMilky Way。いずれも〈乳の川〉の意)になったと伝えられるのも,この射出反射による。ただし,〈天の川〉はゼウスが母レアの乳房を強く吸った際にこぼれた乳汁だともいわれ,エジプトでは雌牛神ハトホルから流れた乳ともされるなど諸説がある。神や英雄や聖人の養育譚に乳が重要な役割を果たすことは多い。ゼウスはクレタ島イデ山の雌ヤギあるいはニンフのアマルテイアの乳で養われた。サンタ・クロースとして広く親しまれる聖ニコラウスは,乳児のころ,キリストがユダに裏切られた水曜日と十字架にかけられた金曜日には,母の乳房を1度しか吸わなかったと,《黄金伝説》には説かれている。粘土からつくられたエンキドゥは野獣の乳で育ち勇猛だった(《ギルガメシュ叙事詩》)。北欧神話エッダ中の巨人ユミルは乳牛アウズムラの乳に養われた。ローマ建国の祖でその名を国名に残したロムルス,レムスの双生児は,半獣神ファウヌスの洞穴に住む雌オオカミに拾われてその乳で養育された。日本にも,《今昔物語集》巻十九に捨てられた生後10日余の男児が大きな白犬の乳で生命をつなぐ話がある。また,乳のもつ生命の糧としての豊饒(ほうじよう)潤沢なイメージは,聖書においてとくに蜜(みつ)と組み合わされて約束の地カナン(《出エジプト記》3:8)や,美しい花嫁(《雅歌》4:11)を形容している。上記のアマルテイアはコルヌコピア(〈豊饒の角〉)と結びつけられている。
牛乳は古代インドでも重宝(ちようほう)されて最高の美味をもつ醍醐(だいご)(〈醍醐味〉はこれに由来する)の原料だった。日本でも,つとに奈良時代初期,山背国の乳牛飼育を調査した記録が《続日本紀》にあり,平安時代の医書《医心方》では牛乳からつくった酥(そ)が健康食として勧められている。
→乳房
執筆者:池澤 康郎
チチという語義は,身体から出る液として血と同じ音から分化したものであろう。日本では母乳以外に動物の乳を利用する風習はまれであった。母乳の少ない場合には,乳の多い女性から分けてもらって赤子を育て,同じ母乳を飲んで育った者は,乳兄弟として母を同じくする兄弟と同様に一生交際する習俗があった。乳を与える女性は乳母と呼んで,これとの間柄も真の母子に近いものがあった(乳(ち)つけ)。乳の出の少ないことは,栄養のとぼしい近代以前にはきわめて多かったので,代用として米の粉を湯に溶いて甘みを加えたものや,飯粒を煮熟したおもゆ(重湯)などが使用された。また乳の出をよくすることを願って,乳房に似た樹皮をもつイチョウ,ニレなどの大木に祈願し,その樹皮を煎じて飲むなどのまじないや俗信も盛んに行われ,民間薬も数多く試みられた。明治以後は牛乳などがしだいに利用されるようになったが,なお,飲ませると子どもが牛になるといった考えがあって急速には普及しなかった。
執筆者:千葉 徳爾
《今昔物語集》巻一には,悉達(しつだ)太子(釈迦)が尼連禅河(にれんぜんが)のほとりで苦行したとき,池の中に千葉の蓮華が生じ,その上に〈乳(にゆう)の麻米(乳粥(ちちがゆ)のようなものか)〉があり,これを施された太子は〈身の光り,気力満給(みちたも)〉うた,と記されている。5~6世紀の中国では,羊,牛,水牛,馬などの乳汁が薬用にされ,加工品の酥,酪,醍醐,乳腐(にゆうふ)も養生や病気の治療に使われていた。日本でも乳牛を薬用のために飼育していたことが《延喜式》に記載されている。そのほか,古代においては人乳も貴重な薬剤で,五臓の働きを助けて栄養をつけ,白くて潤いのある肌にするため,濃く煮つめて服用した。《医心方》巻二十六〈美色方〉にみえる東晋の范東陽の《范汪方》の処方中に人乳とハチ(蜂)の子を混ぜ合わせて竹筒に入れ,生垣の陰に埋めておき,20日後に取り出して顔に100日間塗る美肌剤があり,平安時代の後宮女性たちの間でも行われたようである。また,貴族の女性が母乳を与えなかった理由として,子との相性のほか,閨房(けいぼう)で興奮することや,初産婦の不安定な心理,飲酒などが及ぼす悪影響があることを隋代の医書《産経》は挙げている。
執筆者:槇 佐知子
哺乳類のなかで,他の哺乳類の乳を飲むものは,ヒトをおいてない。家畜からの搾乳を始めることによって,人類は肉食と草食という食習慣に,まったく新たな要素をもちこむことになった。
一般に哺乳類の間では,他の哺乳類の乳は,においや味の違いのために好まれない。にもかかわらず,人類はそれを飲み,加工して食べ始める。そこには,なんらかの契機がなくてはならない。実母を失った子のために家畜からの搾乳を思いついたとも考えられるが,しかし,このような緊急の要は,乳の出る他の乳母的女性に頼ることで解決しうる。想像の域を出ないが,おそらく家畜飼養者が,実母を失った家畜の子のために,他の乳の出る雌の乳を搾って与えるということに端を発したのではないだろうか。
家畜では,実母は実子にしか乳を飲まそうとしない。牧夫は今でも,実母を失った子を育てるため,他の乳雌の間に哺乳・授乳関係を成立させるのに苦労している。他の乳雌から搾乳して子に与える経緯の中で,残った乳が乳酸化してヨーグルト状になったとき,初めて家畜の乳はヒトにとっての食物となったのではなかろうか。ただ,実母を失った子家畜のための搾乳といっても,家畜はふつう簡単にヒトに乳房を触らせ,搾ることを許すものではない。実母を失った子のために,臨時に乳雌を柵に閉じこめて強制搾乳すればよいにしても,群全体の乳雌からの搾乳をするには,なおいくつかの段階をふまねばならなかったと考えられる。
まず近代的改良前の牛は,いわゆる実子による催乳なしには乳腺が開かず,直接乳を搾っても乳は出ない。牧夫は実子を連れてきて乳房をふくませ,乳腺が開いたところで子を引き離して搾乳する。この種の催乳は現在でも東アフリカの牛牧畜民のもとで見いだせる。羊,ヤギについては現在,このような催乳の要はない。ただ搾乳のとき,まず,こぶしで乳房を突き上げるようにしてつかむ動作は,子が乳房にしゃぶりつくときの突上げ刺激の模倣とみなされる。ともあれ,このように容易に搾乳を許容するようになるまでには,やはり初期に,子をおとりに使った可能性はある。わざわざ子に乳雌の乳房をふくませる人為的介入を通じて,この搾乳許容は達成されたのではなかろうか。
搾乳は季節によって異なるが,一般的に朝夕2回なされる。子が草を食えるまで成育して離乳させられると,乳雌は連日搾乳される。親子を隔離して子に哺乳を許さないと乳雌の乳が張り,子のいるキャンプ地に自発的にもどってくる。ここでも子をおとりにして,牧夫は乳雌をとらえているといってよい。
搾乳時,ヒトが近づくと逃げるのを抑えるのにいくつかの方法がある。柵の中に乳雌を追い込み,一方の穴から順次追い出し搾乳する方法は,地中海地域で一般的である。中近東では,長く張り渡したひもつきの綱に首をしばりつけ,縦列に並んだところを,背後からしぼる。習慣づけられたのか,自発的に縦列に並ぶヤギの例もトルコにある。
乳の加工技術は一見,道具やいくつかの手法の組合せで,多様にみえるが,基本的には,(1)乳酸発酵させて,凝乳化させる酸凝乳技術系,(2)子の第四胃からとった凝固剤を入れて,凝乳化させる酵素凝乳技術系,(3)放置して浮上したクリームを分離し,のちに攪拌(かくはん)してバターを分離するクリーム分離技術系とに分けられる。(1)はヨーグルト,(2)はチーズ,(3)はクリームによって代表される。
牧夫は一般に乳は加工して食べ,生乳は飲まない。現在のような生乳の一般的普及は,きわめて新しい現象で,ヨーロッパ近代以降,都市的消費の拡大,またかつての貴族的慣習に由来する女性の身体美保持という動機,また都市的労働に従事する女性の牛乳による保育傾向の拡大によって,一般化したにすぎない。
→牧畜文化
執筆者:谷 泰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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哺乳(ほにゅう)類の雌親の乳腺(にゅうせん)から分泌される液体。新生子は一定期間、乳のみを養分として育つ。組成は種によって異なるが、牛乳では水87%、タンパク質3%、脂肪4%、糖分(主として乳糖)4.5%、無機物0.7%で、そのほかに微量のビタミン類を含む。タンパク質の大部分はカゼインで、炭水化物としてはラクトースを含む。1キログラム当り約660キロカロリーの熱量をもつ。人乳は牛乳よりタンパク質が少なく、糖分が多い。一般に成長速度の速い動物の乳ほど、タンパク質の含有量が多い。出産直後(ヒトでは4~5日)の乳は初乳(しょにゅう)とよばれ、白血球や脂肪粒を含み、また免疫グロブリンAを相当量含んでいる。免疫グロブリンAは新生子の腸で吸収されて、粘膜表面における感染防御に役だつといわれる。乳腺の発達と乳の分泌は、主としてプロラクチンと黄体ホルモンのバランスによって支配されている。プロラクチンは乳腺の発育を促進し、乳の分泌を開始させるが、妊娠中は黄体ホルモンが高濃度に存在して泌乳を抑制する。分娩(ぶんべん)時に黄体ホルモンが減少して泌乳が始まる。ただし、プロラクチンも黄体ホルモンも単独で作用することはなく、数種類のホルモンが共同して働く。ヒトの新生子(児)の場合、母乳を与えるのがもっとも理想的なのは当然であるが、最近は母乳と粉乳、あるいは粉乳のみを与えることも多くなった。粉乳は牛乳を乾燥したものに適当な養分を加えたものである。
[八杉貞雄]
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…俗に鐘,釣鐘(つりがね)とも呼ぶが,古くからその形状や由縁によって多くの異称がある。おもなものに突鐘(つきがね),洪鐘(こうしよう),撞鐘(どうしよう),鴻鐘(こうしよう),蒲牢(ほろう),鳧鐘(ふしよう),九乳(くにゆう),青石(せいせき),華鯨(かげい),霊鐘(れいしよう)などがあげられる。インドの仏寺で用いた打楽器をさす犍稚(かんち∥けんち)(犍椎(かんつい∥けんつい))も梵鐘の異称となっているが,インドには金属製の鐘がなかった。…
…たとえば,鏡銘に魏の景初3年(239)や正始元年(240)の紀年をふくむ鏡は,重列式神獣鏡と同じ配列を用いている。獣形の前後肢の基部を環状に表現しているので,環状乳神獣鏡とよぶ鏡の内区を模作したものもある。 しかし,先行する神獣鏡から借用したのは内区の図文のみであって,内区の外周をめぐる半円方形帯や,平縁(ひらぶち)の外区を飾る画文帯などを再現することは,三角縁神獣鏡ではきわめてまれである。…
…俗に鐘,釣鐘(つりがね)とも呼ぶが,古くからその形状や由縁によって多くの異称がある。おもなものに突鐘(つきがね),洪鐘(こうしよう),撞鐘(どうしよう),鴻鐘(こうしよう),蒲牢(ほろう),鳧鐘(ふしよう),九乳(くにゆう),青石(せいせき),華鯨(かげい),霊鐘(れいしよう)などがあげられる。インドの仏寺で用いた打楽器をさす犍稚(かんち∥けんち)(犍椎(かんつい∥けんつい))も梵鐘の異称となっているが,インドには金属製の鐘がなかった。…
…イスラム法で,奴隷や土地に対する所有権を意味する語。その所有者をマーリクmālikという。歴史的には個人の私有地を指す用語として用いられることが多い。屋敷地,菜園,果樹園が私有の対象となったほか,村落の全体やその一部がカリフやスルタンから分与地(カティーア)として授与されることもあれば,荒蕪地や湿地帯が有力者により私領地(ダイア)として囲い込まれることもあった。カティーアとダイアにはミルクの権利が認められ,ともに売買,相続,贈与の対象とすることができた。…
…ひづめが分かれていず,胃袋で反芻(はんすう)することをしない動物の食用が禁じられているので,ブタやウマを食べることは許されないし,うろこ,ひげのない魚であるエビ,カニ,イカ,タコもユダヤ教徒は食べてはならない。動物の料理のしかたにもおきてがあり,ミルクや乳製品と肉をまぜてはならないとされるので,肉をバターでいためたり,肉とチーズをいっしょに料理することも戒律に反する。食物にたいする宗教的規制が比較的ゆるやかであるとされるキリスト教でも,かつては灰の水曜日から復活祭前夜までの46日間は,日曜日以外は肉食が禁じられていたし,現在でも金曜日には肉食をせず,代りに魚を食べる習慣を守る人々も多い。…
…現在では家庭における飯炊きは精白米を計って洗うことから始まるが,米屋が出現するまでは脱穀,精白などの作業が飯炊きの延長上にあるしごととして家庭で行われていたのである。また,多くの先進社会においては,バター,チーズなどの乳製品をつくる作業は食品産業の一部門となっているが,以前は専業の職人のしごととされ,それ以前の段階では家庭でなされる料理の一部であった。漬物などの保存食品や発酵食品,みそ,しょうゆなどの調味料つくりも日本の家庭の台所しごとであったものだが,食品加工の分野にとって代わられつつある。…
※「乳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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