翻訳|opal
ケイ酸SiO2を含む堆積岩,時に火成岩中に産する非晶質の鉱物で,タンパク石ともいう。成分はSiO2・nH2Oで,通常1~21%の水分を含むが,宝石種となるものは水分約6~12%であるといわれる。モース硬度5.5~6.5,比重1.99~2.25,屈折率n=1.44~1.47,ガラス光沢ないし樹脂光沢である。オパール自体はごくありふれた鉱物であるが,そのなかで,美しい特有の遊色効果play of color(俗に斑色(ふいろ)という)を示すプレシアス・オパールあるいはノーブル・オパール,その地色の美しいコモン・オパールなどが主に宝石用となる。オパールはローマ時代から17世紀初期までは大いに珍重されたが,18世紀から19世紀にかけては,不幸を招く石として不評をかうことになった。その理由の一つには,ウォルター・スコットの小説《ガイアスタインのアン》(1829)の影響があるといわれている。この小説のヒロインはオパールを持っていたが,彼女がこの石をついに海に投げ捨てるまで常に不幸につきまとわれるという筋書である。しかし1964年に産地のオーストラリアにおいて,イギリスのエリザベス女王に献上された,強い青色の遊色効果を示す203カラットのホワイト・オパールは,白金枠にセットされ,ネックレスとして女王に愛用されたので,オパール愛用の風潮を再び高めたともいわれている。
オパール特有の七彩色の遊色効果は,ケイ酸の球状粒子(150~300nmの粒子径)の規則的な配列構造に基づく内部での光の回折現象による。粒子径の大きい場合には波長の長い赤色のスペクトルを,小さい場合には波長の短い紫色のスペクトルを現すが,これらが入りまじって七彩色の効果を示す。プレシアス・オパールは,その遊色に関係なく,地色(ボディ・カラー)によって,オーストラリアで主に産する白色ないし乳白色の〈ホワイト・オパール〉,青色や灰色もしくは黒色に近い暗色の地色をもつ〈ブラック・オパール〉,そしてメキシコ産の無色の〈ウォーター・オパール〉,黄色から橙色をへて赤色までの地色をもつ〈ファイア・オパール〉の四つに大別される。生成・産状的には堆積岩中に産するサンドストーン・オパールと,火成岩中に産するマウンテン・オパールに二大別される。オーストラリア産は主として前者のタイプで,メキシコ産は後者のタイプである。遊色効果を示さなくても,地色の美しいもの(緑,ピンク,青など)は宝石の仲間に加えられ,また不透明であるが,その地色の美しいものはオパライトと呼ばれる。前記の二大産地の他に,ブラジル,インドネシア,アメリカ,ホンジュラス,チェコスロバキア,タンザニア,ペルーなどに産出がある。日本でも福島県西会津町宝坂,長崎県波佐見町などに産出するが,宝石種のものはごく僅少である。オパールの構造が完全に解明された結果,1972年以降ホワイト・オパールおよびブラック・オパールが人工的に製造されるようになり,また同様な構造をもち,外観的には識別困難なほど精巧なプラスチック製模造オパールも製造されるようになった。
執筆者:近山 晶
大プリニウスの《博物誌》(第37巻)には,オパールは〈いろいろな宝石の魅力を寄せあつめたようなものだから,これを記述するのはひじょうに困難である。それはいわば,ザクロ石のちらちら燃える火と,アメシストの緋色の輝きと,エメラルドの海緑色とを併せもっている〉とある。またプリニウスは一つの逸話を語っている。それによると,元老院議員のノニウスNoniusは200万セステルティウスもする巨大なオパールの指輪をもっており,アントニウスに譲ってくれと迫られたが,どうしても嫌だといって手放さず,そのために追放された。〈獣だって危険が迫ったときには自分のからだの一部を切り離すのに,追放されてまでオパールを手放さなかったノニウスの強情さは驚くべきものだ〉とプリニウスは感心している。17世紀のT.ブラウンは《壺葬論》のなかで,ウォルシンガムの野で発掘された古代の骨壺から出てきた〈まだ青い色を保っているオパール〉について愛惜をこめて語っている。火葬で燃えのこった指輪の石であろう。中世には,毒を予防する力があると信じられていたので,指輪ばかりでなく,金銀細工の装飾として用いられることも多かった。近世になって,オパールが不幸をもたらす石だという迷信が生じたのは,前述の小説の影響もあったであろうが,この石がこわれやすく,また熱によってひび割れができたりすることによるものであろう。
執筆者:澁澤 龍
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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SiO2・nH2O.たんぱく石(蛋白石)ともいう.非晶質のものと,やや結晶質のものとがある.含水ケイ酸塩鉱物で硬度5.5~6.5.密度2~2.2 g cm-3.n約1.6.透明ないし半透明で,色は無色,白色および淡~濃色の黄,赤,緑,青,褐色など.温泉の沈殿物として,また火山岩の空げきを満たしたり,金属鉱床の脈石として産出する.美しいたんぱく光を発するものは準宝石として珍重される.主産地はメキシコおよびオーストラリア.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…主に安山岩,流紋岩,粗面岩,黒曜岩などの火山岩中に産出する。以前は非晶質とされていたオパールは非常に細粒なクリストバライトの集合体。天然の高温型クリストバライトは常に低温型クリストバライトあるいは低温型石英に変わっている。…
…また天然にはSiO2・nH2Oの組成をもつ無定形の二酸化ケイ素がある。オパールはその一つで,密度は2.1~2.3g/cm3,融点は1600℃以上である。 実験室で可溶性のケイ酸塩水溶液に適当な酸を加えたコロイド状ケイ酸を蒸発乾固させると,しばしばシリカゲルと呼ばれる多孔質の無定形二酸化ケイ素が得られる。…
※「オパール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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