カエデ(英語表記)maple
Acer

改訂新版 世界大百科事典 「カエデ」の意味・わかりやすい解説

カエデ (楓)
maple
Acer

カエデ属樹木の総称。カエデは蛙手(かえるで)で,最もふつうに見られるイロハモミジオオモミジの掌状に分かれる葉をカエルの手になぞらえたもの。モミジともいうが,これは紅葉するという意味の〈もみず〉からきており,秋に紅葉する植物の代表であるカエデ類を指すようになった。カエデは漢字でよく楓の字があてられるが,中国で楓とはマンサク科のフウのことで,カエデ類はふつう槭という。フウは日本には自生しないが,葉形がややカエデ類に似ているので,両者を混同したのであろう。しかしフウは葉が互生するので,対生のカエデ類とは簡単に区別できる。

日本は北半球温帯域では最もカエデ属の種が多く,温帯林の主要構成種の一つになっている。日本にみられる主要なカエデの種には次のようなものがある。

(1)イロハモミジ(別名イロハカエデA.palmatum Thunb.(英名Japanese maple) 庭園などに最もよく植えられているカエデで,多数の園芸品種がある。大きいものでは樹高15m,直径1mになる。葉は小型で掌状に5~7裂し,粗い重鋸歯がある。雌雄同株。和名は葉の裂片を端からイロハニホヘトと数えることからきている。京都の紅葉の名所,高雄にちなんでタカオモミジとも呼ばれる。福島および福井以西の本州,四国,九州,朝鮮南部,中国東部に分布する。近縁種が東アジアからヒマラヤ地方にかけて約30種あり,北アメリカ西部にも1種が分布する。日本にはおもな種類として次のものがある。オオモミジA.amoenum Carr.は葉がイロハモミジよりやや大きく,おもに7裂し,細かい単鋸歯をもつ。北海道から九州まで分布。変種のヤマモミジvar.matsumurae(Koidz.)Ogataは葉が7~9裂し,鋸歯が粗く,しばしば重鋸歯になる。青森県から石川県までの日本海側山地に分布。イロハモミジやオオモミジも俗にヤマモミジと称されることがあるが誤りである。ハウチワカエデA.japonicum Thunb.(英名fullmoon maple)は葉が掌状に9~11裂し,このグループの中では最も大きい。花もカエデの中では大きい方で,直径1cmほどあり,紅色の萼片が美しい。和名は葉を天狗の羽団扇(はうちわ)になぞらえたもので,メイゲツカエデ(名月楓)ともいう。北海道,本州の温帯~亜寒帯の下部山地に分布し,北海道でよく庭園樹に用いられる。

(2)イタヤカエデA.mono Maxim.(英名painted maple) シベリア東部,サハリン,中国東北部,朝鮮,日本の広い範囲にわたって分布するカエデで,葉は掌状に3~9裂するが,鋸歯がないのが特徴である。樹高25~30m,直径1mの高木になる。雌雄同株。秋黄葉する。エゾイタヤvar.mono(シベリア~北海道,本州日本海側に分布),アカイタヤ(別名ベニイタヤ)var.mayrii Koidz.(北海道,本州日本海側),エンコウカエデvar.marmoratum(Nichols.)Hara(本州,四国,九州),オニイタヤvar.ambiguum(Pax)Rehder(北海道南部~九州)など数変種に分けられる。木材は淡紅白色を示し,絹糸様の光沢があって美しい。気乾比重約0.67,緻密(ちみつ),強靱で,床板,運動具(スキー板,ラケット枠,ボウリングのピンなど),楽器(バイオリンの裏板,ピアノのアクション部品)などに賞用され,日本の主要広葉樹材の一つである。

(3)ウリハダカエデA.rufinerve Sieb.et Zucc. 樹皮が暗緑色でウリ(瓜)の肌に似ている。雌雄異株。本州,四国,九州の山地に普通にみられる中高木。樹皮はじょうぶで荷縄,蓑,箕(み)に利用された。木材は淡黄白色,イタヤカエデよりは軽軟で,東北地方ではこけしに用いられる。東アジアに近縁種が多く,北アメリカにも1種ある。日本には次の種類を含め7種がある。ウリカエデ(別名メウリノキ)A.crataegifolium Sieb.et Zucc.は福島以西の本州,四国,九州の低山地に分布する小高木。樹皮はウリハダカエデと同様に暗緑色。ミネカエデA.tschonoskii Maxim.は南千島,北海道,本州中部地方以北の亜高山帯に分布する小~中高木。秋紅葉する。本州,四国,九州の温帯にあるコミネカエデA.micranthum Sieb.et Zucc.はミネカエデに似るが,葉,花,果実が小さい。

(4)ハナノキA.pycnanthum K.Koch 岐阜,長野,愛知3県にまたがる恵那山山麓地方と長野県北西の居谷里(いやり)湿原にのみ自生する。北アメリカ東岸地方に広く分布するアメリカハナノキA.rubrum L.(英名red maple)ときわめて近縁で,その変種とされることもある。雌雄異株。4月はじめ葉に先立って多数の紅色の小花が咲き美しい。また秋美しく紅葉する。果実は5月中ごろに熟し,秋に熟する他のカエデ類と異なっている。大きいものは樹高25m,直径1mに達し,天然記念物に指定されているものがある。最近は庭園樹として育てられるようになった。

(5)オガラバナA.ukurunduense Trautv.et Meyer 亜高山帯山地に生育する小~中高木。雌雄同株。6~7月ごろ,淡黄白色の多数の小花が上向きの穂状花序に咲くのでホザキカエデともいう。シベリア南東部~朝鮮,サハリン,千島,北海道,近畿地方以北の本州に分布。近縁種が中国~ヒマラヤ,北アメリカ東岸部に1種ずつある。またテツカエデA.nipponicum Hara(本州,四国,九州に分布),マルバカエデ(別名ヒトツバカエデ)A.distylum Sieb.et Zucc.(本州近畿以北)もオガラバナのやや近縁と思われる。

(6)チドリノキ(別名ヤマシバカエデ)A.carpinifolium Sieb.et Zucc.(英名hornbeam maple) 山地の沢沿いにみられる小高木。葉がカバノキ科のシデ属に似た楕円形で,多数の側脈が平行に走る。雌雄異株。本州,四国,九州の温帯に分布。日本特産で,世界に近縁種がない。和名は翼のある果実をチドリにみたてたもの。

(7)トウカエデA.buergerianum Miq. 唐楓の名が示すように原産地は中国東南部と台湾で,18世紀初めに渡来した。落葉中高木。幹は凹凸が著しく,樹皮は褐色で薄片状にはげる。じょうぶな木で,最近は街路樹に多く用いられる。園芸品種も多い。

 以上のほかに日本には3出複葉をもつミツデカエデA.cissifolium(Sieb.et Zucc.)K.Koch(本州,四国,九州に分布)およびメグスリノキA.nikoense Maxim.(同),早春の花が美しいオニモミジA.diabolicum Bl.ex K.Koch(同),葉がアサの葉に似たアサノハカエデA.argutum Maxim.(本州,四国),山中の湿地によくみられるカラコギカエデA.aidzuense(Franch.)Nakai(北海道~九州)などがある。

 カエデ属Acerは北半球の温帯を中心に約160種が分布し,街路樹や庭園樹として賞用されるほか,大木になるものには有用材を産出するものも多い。また北アメリカに分布するサトウカエデは春に樹幹に切傷をつけ,流出する樹液を煮つめてカエデ糖を採取する。イタヤカエデの樹液も1.3~1.8%の糖を含む。セイヨウカジカエデA.pseudoplatanus L.(英名sycamore)は北ヨーロッパとイギリスを除くほとんど全ヨーロッパに分布するカエデで,イギリスではシカモアと呼ばれる。樹高30m,直径2mに達する。その材はイタヤカエデやサトウカエデと同様に優秀で広い用途があるが,中でもバイオリンの側板および裏甲板としての特用があり,ストラディバリなどの名器をはじめ,今日でも高級バイオリンにはすべてこの材が用いられている。とくに鳥眼杢(ちようがんもく)(bird's eye)といわれる鳥の目状の杢のある板が賞用される。ちなみに表甲板にはマツ科トウヒ属の材が用いられる。北アメリカに広く分布するトネリコバカエデ(ネグンドカエデ)A.negundo L.は3~9小葉の複葉をもち,カエデとしては例外的に挿木が容易で生長が早く,日本でも庭園や街路樹としてよく植えられている。ただし材質は劣る。コブカエデA.campestre L.は枝にコルク質の隆起をもつためこの名がある。ヨーロッパに広く分布し,イギリスに自生する唯一のカエデでもある。大高木にはならないが,じょうぶで垣根によく用いられ,ウィーン郊外にある旧オーストリア皇帝の夏の宮殿の生垣はよく知られている。日本でも庭園などでみることがある。
執筆者:

日本にはカエデ属の多くの野生種があり,そのうちの数種から,繊細な美しさを有するカエデ類の園芸品種が育成されている。

 イロハモミジはそのうちで最も園芸品種が多い。葉が小型で矮性品種の八房(やつぶさ)性は盆栽や鉢植えに適する品種群である。江戸時代より伝わる八房と新しく司八房,池田八房,秩父八房,鹿島八房など実生変異で生じた園芸品種がある。また,新芽や紅葉の美しい清姫,玉姫,出猩々(でしようじよう)などの品種がある。新しい葉を観賞するものに春の芽出しが鮮紅色の赤地錦,千染(ちしお),出猩々,黄色く萌芽するうこん,葉先のみが紅になる爪柿(つまがき)などがある。錦と名の付いた品種は斑入葉が多く,錦葉ものとも呼ばれ,斑入葉の鮮やかな変化を見る日笠山,織殿錦(おりどのにしき),小紋錦,限り錦などがある。斑入葉は江戸後期に流行した品種群で現代まで伝わり,新しい品種も生まれている。

 オオモミジの園芸品種も多く,斑入葉もあるが,庭木として植えられている野村カエデは,春,葉の萌芽したときは紅紫色で,夏には緑色になる。秋の紅葉が美しい大盃(おおさかずき)は紅葉後も長く枝に残り,紅葉が黄色になる一行寺(いちぎようじ)などと混植するとよい。〆の内(しめのうち)は葉が全裂し線形で3裂や5裂,7裂などになり,七五三とも呼ばれる。

 ヤマモミジの品種の紅枝垂(べにしだれ)群には,手向山(たむけやま)(葉が全裂して裂片が羽状で細かく,枝はやや垂れる)や稲葉(いなば)枝垂,外山(とやま)などがあり,青枝垂群には切錦(きれにしき),鷲の尾(わしのお),関守などがある。そのほかの種に属する園芸品種には,ウリハダカエデの斑入葉に初雪楓(萌芽期に白く斑が入る)や,京錦とよぶ黄斑の品種があり,イタヤカエデには星宿り(黄色の散斑で鮮やかなもの),常盤(ときわ)錦(白斑のもの),エンコウカエデの斑入品で秋風(しゆうふう)錦などがある。

 ハウチワカエデに,葉が深裂してクジャクの羽に似ているところから舞孔雀(まいくじやく)の名が付けられている変り葉の品種があり,このような変化葉はほかのカエデ類にもあり,置霜(おきしも),獅子頭(ししがしら),羽衣などは奇形の葉を賞するものである。

 トウカエデは緑陰樹として植えられているが,盆栽とされる。通天(つうてん)や,宮様楓(別名マルバカエデ),丹鳥楓,東洋錦などの変形葉や斑入葉などの園芸品種が栽培されている。

 カエデ類の園芸品種の繁殖は接木を2~3月におこなうのが普通であるが,台木には同一系統の種類を選ばなければ活着しない。挿木は幼苗より採穂したものは活着しやすいが,成木の枝は発根率は悪い。移植は落葉直後の初冬が適し,次に萌芽前の春に植え付けるのがよい。
執筆者:

イギリスにはシカモア(セイヨウカジカエデ)に関し,次のような伝承がある。昔,ドーバー郊外で仲間を撲殺した守備隊の兵士が,凶器として使用したシカモアの棒を現場に突きさし,〈万一この棒に根がはえることがあれば友人殺しの罪を告白します〉と神に約束した。数年後に現場へ帰ってみると,棒が根づいていたため,兵士は罪を告白して絞首刑になったという。同地にあるシカモアの古木〈孤独の木Lone tree〉は,そのときの棒だと伝えられる。またイギリスでは豊饒(ほうじよう)のシンボルとして崇拝され,五月祭にはイバラとともに家の戸口に飾られる。花ことばは〈愛と豊饒〉。
執筆者:

双子葉植物で,すべて木本性。カエデ属Acerとキンセンセキ属(金銭槭属)Dipteroniaの2属からなる。キンセンセキ属はわずか2種で,中国の中部から南部にのみ分布する落葉小高木である。カエデ属は約160種を含み,おもに北半球の温帯に分布する。中国からヒマラヤにかけて約90種あり,次いで日本に26種,ヨーロッパに13種,北アメリカに13種ある。ほとんどは落葉樹だが,アジアの亜熱帯~熱帯には常緑のものがある。

 葉は対生し,多くは単葉であるが,若干種では3出複葉または羽状複葉。雌雄異株または同株。花は一般に淡黄色~黄色の小花で,花弁および萼片はともに通常5で,おしべは4~12本だが,多くは8本。子房上位。果実は翼果で,翼が左右に竹とんぼ状に伸びる。ただしキンセンセキ属では翼が種子の周囲をまるく囲む。落葉するものでは秋美しく紅葉または黄葉するものが多いし,新葉の美しいものもあり,観賞用に庭園,公園,街路樹として植えられる。北アメリカのサトウカエデ,日本のイタヤカエデ,ヨーロッパのセイヨウカジカエデなどの材は良材で,建築,家具,運動具,楽器などに賞用する。サトウカエデの樹液からはカエデ糖をとる。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カエデ」の意味・わかりやすい解説

カエデ
かえで / 楓
maple
[学] Acer

カエデ科(APG分類:ムクロジ科)カエデ属の総称。モミジともいうが、これは紅葉するという意味の動詞「もみず」の名詞化したもので、秋に紅葉する植物の代表であるカエデ類をさすようになった。植物分類上はカエデとモミジはともにカエデ属樹木を表す同義語であるが、園芸界ではイロハモミジ、オオモミジ、ハウチワカエデなどイロハモミジ系のものをモミジといい、それ以外のイタヤカエデ、ウリハダカエデなどをカエデとして区別する習慣がある。日本では一般にはカエデに、楓の漢字をあてるが、中国で楓とはマンサク科(APG分類:フウ科)の植物であるフウのことで、カエデは槭と書く。フウは日本には自生しないが、葉形がややカエデに似ているので両者を混同したのであろう。しかしフウは葉が互生なので、対生のカエデ類とは簡単に区別がつく。もっともトウカエデだけは中国でも三角楓と書く。

[横井政人 2020年9月17日]

分類

カエデ科はカエデ属とコムクロジ属の2属に分けられるが、科としては非常によくまとまったグループを形成し、科内での種の分化は著しく、多様な外部形態的変化を示し、種の区別が明確であるものが多い。したがってカエデ属をさらにいくつかの属に分けることも行われてきたが、普通は属の下の節(せつ)の単位で小グループに区分する。

 属のなかを分類する場合の重要な性質は、冬芽(とうが)の鱗片(りんぺん)の数、花序の形態とつき方、花の性質と性などである。かつては葉の形態が重要視されたこともあったが、これはかならずしも節の特徴とはなりえない。冬芽の鱗片は幼い芽を保護して外部を覆っている鱗(うろこ)状の薄片で、2枚ずつが対(つい)をなして十字対生する。これが2対のものから11~15対もあるものまで、各節に特有の性質として定まっている。花序は円錐(えんすい)状、穂状、単総状、散形状などがあり、頂芽からも側芽からも出るか、側芽のみからしか出ないか、また基部に葉を伴うか伴わないかなどに分かれる。花は本来は花弁5枚、萼片(がくへん)5枚、雄しべ8本、雌しべ1本を備えた両性花であったものが、進化の過程で雄花と雌花へ分化する傾向を進めてきたとみられ、(1)同一花序内に雄花と両性花が雑居する(雌雄同株)、(2)雄花と両性花が別の木につく(雌雄異株)、(3)雄花と雌花が別の木につく(雌雄異株)の3型が各節の特徴として認められる。一般に両性花の雄しべは雄花の雄しべより花糸が短く、機能的には雌性と思われる。また(1)(2)では雄花にも痕跡(こんせき)的な雌しべが残っている。このような分化に伴って各要素の数の一連の退行現象がみられ、もっとも分化の進んだトネリコバノカエデ節では花弁0、萼片4~5枚、雄花の雄しべ4~6本に減少する。しかしメグスリノキ節のように花弁、萼片各6枚、雄しべ12本と多くなっている場合もある。これらの性質の組合せによって、世界のカエデ属を細かくみると25節に分けることができるが、そのうち日本には次の14節がある。(1)ウリカエデ節、(2)ヒトツバカエデ節、(3)テツカエデ節、(4)オガラバナ節、(5)イロハモミジ節、(6)アサノハカエデ節、(7)ミツデカエデ節、(8)カラコギカエデ節、(9)ハナノキ節、(10)イタヤカエデ節、(11)クロビイタヤ節、(12)メグスリノキ節、(13)カジカエデ節、(14)チドリノキ節。このうち(2)(3)(14)は日本に固有の節である。

[横井政人 2020年9月17日]

 APG分類ではカエデ属とキンセンセキ属(コムクロジ属)はムクロジ科に統合され、カエデ科は消滅した。

[編集部 2020年9月17日]

分布

世界にカエデ属の樹種は約160種あるが、もっとも多いのは中国からヒマラヤ地方にかけてで約90種あり、ついで日本に26種、ヨーロッパに13種、北アメリカに13種で、そのほか若干種が小アジアやアジアの亜熱帯から熱帯に分布する。北半球の温帯を分布の中心とする典型的な属であるが、オガラバナ、ミネカエデなど数種は亜寒帯山地に生育し、またただ1種A. laurinum Hassk.はフィリピン、マレー半島から赤道を越えてジャワ島やチモール島まで分布する。ヨーロッパや北アメリカに種類が少ないのは第四紀更新世(洪積世)の氷河時代の厳しい気候のためで、とくに前者ではアルプスの障壁に南下を阻止された多くのカエデがこの時期に滅亡したと考えられている。たとえばイギリスに自生するカエデは1種、ドイツやフランスでも4種しかない。しかし化石は多く発見されている。アジアでは氷河の影響が比較的穏やかであったため種類が温存された。南北に長い日本は面積の小さいわりに種類が多く、かつ形態的変化に富む。秩父(ちちぶ)や日光付近にもっとも種類が多い。

[横井政人 2020年9月17日]

園芸品種

カエデの園芸品種は数多くある。代表的品種名と葉の特徴などを以下に示す。

〔1〕ハウチワカエデの園芸品種
舞孔雀(まいくじゃく) 葉が基部まで細裂し、白斑が不規則に入る
〔2〕イロハカエデの園芸品種
限り錦(かぎりにしき) 斑(ふ)入り
置霜(おくしも) 葉が縮れた感じの葉変わり品種
千染(ちそめ) 千汐(ちしお)ともいう。新葉が紅色
赤地錦 青崖(せいがい)ともいう。新葉が紅色
十寸鏡(ますかがみ) 砂子模様で葉の縁(へり)が紅色
土蜘蛛(つちぐも) 葉が巻く
日笠山 覆輪斑入り
獅子頭(ししがしら) 葉が巻く。葉形は小さい
〔3〕オオモミジの園芸品種
野村 紫紅色
大盃(おおさかずき) 秋の紅葉が鮮やか
旭鶴 桃色葉に白色の斑が不規則に入る
一行寺(いちぎょうじ) 黄色葉
大明(だいめい)錦 紫紅色に桃色斑が入る
紅鏡 濃紫色
猩々(しょうじょう) 紅色が鮮やか
〔4〕ヤマモミジの園芸品種
羽衣(はごろも) 矮性(わいせい)
錦重(にしきがさね) 黄色が葉の縁から中央部に入る
松ヶ枝(まつがえ) 白色で覆輪状の斑が入る
珊瑚閣(さんごかく) 枝が紅色。冬季がとくに美しい
金欄(きんらん) 紅紫色
清姫 矮性。盆栽用
琴姫 東京八房(やつふさ)ともいう。矮性
小紋錦 黄色。砂子斑が入る
織殿錦(おりどのにしき) 白色の斑が不規則に入る
鴫立沢(しぎたつさわ) 葉脈が濃緑色
爪紅(つまべに) 葉の縁が紅色で、上品な感じ
治郎枝垂(じろしだれ) 枝垂。葉が細裂しない
手向山(たむけやま) 紅枝垂ともいう。枝垂。赤色
青枝垂 枝垂。緑色
外山錦(とやまにしき) 枝垂。紫紅色に桃色の斑が入る
青の七五三 緑色。細葉。裂片の長さが違う
赤の七五三 赤色。細葉。裂片の長さが違う
〔5〕イタヤカエデ(トキワカエデ)の園芸品種
常盤(ときわ)錦 白色の斑が不規則に入る
薄雲 葉全体が白色になる
星宿 葉全体に白色の斑が細かく入る
〔6〕トウカエデの園芸品種
宮様八房(やつふさ) 丸葉。矮性
幣取山(ぬさとりやま) 葉全体が白色になる
五色カエデ 白色葉に桃色の斑が入る
和光錦 新芽は白色で、かすかに桃色がさす
 これらのほかに、近年は洋種カエデの栽培もあり、比較的古くからあるネグンドカエデやコブカエデも含め、次のものがある。

〔7〕ネグンドカエデ(トネリコバノカエデ)A. negundo L.の園芸品種
斑入りネグンドカエデ
黄金葉ネグンドカエデ
〔8〕コブカエデA. campestre L.の園芸品種
ほうき立ち性、枝垂性、細葉で細裂性、黄金葉性など、さまざまな品種がある。

〔9〕ギンカエデ(ギンヨウカエデ)A. saccharinum L.の園芸品種
レオポルディ(黄白色で、掃き込み斑が入る)
ウオーレイ(新葉が黄色)
エレクツム(直立性)
〔10〕ノルウェーカエデA. platanoides L.の園芸品種
ドラモンディー(白色で覆輪)
クリムソンキング(紅紫色)
[横井政人 2020年9月17日]

栽培

植え付けは適湿地で排水のよい砂質壌土がよく、日当りのよい場所が紅葉によい。植え付け時期は10~11月ごろとする。剪定(せんてい)は自然形にするようにし、枯れ枝、ふところ枝、からみ枝などをとり、軽く枝すかしをし対生枝の片方を交互に取り除いて自然に伸ばしていく。太い枝を切ると腐れをおこすこともあるので、切らないほうがよい。カミキリムシの幼虫が幹に入って害をおこすので、虫穴に浸透性殺虫剤を入れる。繁殖は実生(みしょう)、取木を主とし、品種によっては挿木もできる。

[横井政人 2020年9月17日]

名所

古くから各地に名所があるが、北海道の大沼公園、定山渓(じょうざんけい)、那須(なす)高原、日光国立公園、妙義山、上高地、高尾山、富士箱根伊豆国立公園、京都の三千院、清水寺(きよみずでら)、嵐山(あらしやま)、奈良の竜田川などがよく知られている。

[横井政人 2020年9月17日]

利用

カエデ材は一般に辺心材の区別がなく、淡黄白色ないし紅白色を呈し、緻密(ちみつ)で、絹糸のような光沢があって美しい。なかでも日本のイタヤカエデ、北アメリカのサトウカエデ、ヨーロッパのセイヨウカジカエデなどは高木となり、材質が優れる。気乾比重0.6~0.7、強靭(きょうじん)で、床板、運動具(スキー板、ラケット枠など)、家具、細工物などによく用いられる。特殊な用途としては、バイオリンの側板および裏板、ピアノのアクション部材、ボウリング場の床板およびピンなどがある。バイオリン杢(もく)、鳥眼杢(ちょうがんもく)のような美麗な木目(もくめ)を表すことがある。イタヤカエデやウリハダカエデはこけし用材ともされる。また、サトウカエデの樹液からかえで糖をとることはよく知られているが、十和田湖付近のイタヤカエデからも一時かえで糖の生産が行われていた。ちなみに、カナダの国旗は中央に大きくサトウカエデの葉が1枚描かれており、それほどにこのカエデは同国の国花(シンボルツリー)として親しまれている。

[緒方 健 2020年9月17日]

文化史

日本は世界のカエデ類の野生種の中心地の一つであるが、園芸上も世界に類をみない発達を遂げた。モミジを含め、名の残る品種数は200を超す。カエデはすでに奈良時代に栽培下にあったことが、『万葉集』の「わが屋戸(やど)に 黄変(もみ)つかへるで 見るごとに 妹を懸けつつ 恋ひぬ日は無し」で明らかである。かへるではカエデの古名で、葉の形がカエルの手に似ることに由来する。カエデの品種は江戸時代に爆発的に増加した。伊藤伊兵衛三之丞は元禄(げんろく)の『花壇地錦抄(かだんちきんしょう)』(1693)で楓(かいで)の類として23の名をあげる。うち板家(いたや)は現在のハウチワカエデであるが、高雄をはじめモミジ系が多い。伊藤伊兵衛正武は『増補地錦抄』(1710)と『広益地錦抄』(1719)にそれぞれ36、『地錦抄附録』(1733)に28のカエデを和歌とともにあげた。これらの書物に出る名は重複するものを除いて114にも及ぶ。

[湯浅浩史 2020年9月17日]

『大井次三郎他編『モミジとカエデ』(1968・誠文堂新光社)』


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百科事典マイペディア 「カエデ」の意味・わかりやすい解説

カエデ(楓)【カエデ】

カエデ科カエデ属の総称で,葉の形がカエルの手に似るところから名付けられたといわれる。落葉まれに常緑の高木で,葉は対生し,単葉で掌状に裂けるものが多く,または3〜5小葉の掌状複葉。秋に美しく紅葉するものが多い。雌雄同株または異株で,春,総状〜散房状の小花をつける。花柱は2本,おしべは4〜10本であるが,多くは8本。果実は2枚の翅があり,独特の形をなす。主として北半球の温帯に分布し,約160種。日本には26種ほどが自生し,数百の園芸品種がある。日本の山地に広く分布し,最も普通に植えられるイロハモミジ(イロハカエデとも)は,葉が小型で掌状に5〜7裂し,裂片の先はとがり,縁には重鋸歯(きょし)があり成葉には毛がない。4〜5月,若葉と同時に若枝の先に散房花序を出し,暗紅色の小花がたれ下がる。萼片,花弁ともに5枚。果実は小さい。オオモミジはイロハモミジに似ているが,葉は大きく,掌状に7〜9裂し,縁には細かく規則的な単鋸歯がある。花や果実もやや大きく,北海道〜九州の山地に自生する。ヤマモミジはオオモミジの変種で,主として日本海側山地にはえ,葉の縁には重鋸歯がある。北海道〜本州の山地にはえるハウチワカエデは,葉がさらに大型,9〜13中裂し,初めは白毛がある。カエデ類は古くから庭園に植えられ,江戸時代に多くの園芸品種が作られた。現在植栽される〈野村〉〈占(しめ)の内〉〈手向山(たむけやま)(縮緬(ちりめん)楓)〉などの大部分はイロハモミジやその変種からできたもの。カエデ類の樹液はショ糖を含み,特に北米のサトウカエデからはメープル・シロップをとる。なお,モミジは紅葉するものの総称であったが,カエデ類,特にイロハカエデで紅葉が著しいため,おもにカエデ類をさすようになった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カエデ」の意味・わかりやすい解説

カエデ
Acer; maple

カエデ科カエデ属の落葉高木の総称。広く北半球の温帯に分布し,日本では 20種以上の自生が知られ,また庭園にも植えられる。葉はすべて対生し,葉の形はいろいろあるが,カエルの手のように裂けているものが多いためカエデの名がある。また秋の紅葉が美しいのでモミジとも呼ばれる。春,枝先に散房または総状花序を出して,多数の小花をつける。花は4~5枚の萼片と花弁があり,黄緑色,緑色,赤色などがある。しばしば雌雄の別がある。果実は2室から成り,おのおの長い翼があり,落下するときに種子が舞って飛散する。材は器具や家具材として有用なものが多い。また北アメリカのサトウカエデ A. saccharumの樹液から,上質の砂糖をとる。日本産のカエデ属のなかで山地に広く自生し,また最も普通に植えられるものはイロハモミジ,ヤマモミジ (山紅葉)イタヤカエデ (板屋楓)などで,葉は5~7に深く裂け,典型的な形を示す。ハウチワカエデ (羽団扇楓)は北海道から本州中部の山に多く,葉は大型で9~13に裂ける。ヒトツバカエデ,チドリノキは葉が分裂せず,特異な形である。またミツデカエデ,メグスリノキなどの葉は,3小葉から成る複葉,北アメリカ産のトネリコバノカエデは羽状複葉である。漢名の楓はまったく別種である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のカエデの言及

【モミジ】より

…カエデの代表種であるイロハカエデの別称。また総称的な名前としてカエデ類をモミジ類とも呼ぶこともある。…

※「カエデ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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