日本大百科全書(ニッポニカ) 「カシワ」の意味・わかりやすい解説
カシワ
かしわ / 柏
槲
檞
daimyo oak
[学] Quercus dentata Thunb.
ブナ科(APG分類:ブナ科)の落葉高木。太い枝を出し、通常は15メートル以下。樹皮は厚く、深い割れ目がある。新枝も太く黄褐色の短い毛を密生する。頂芽は大きく卵状円錐(えんすい)形で5稜(りょう)がある。葉は倒卵形で基部は耳状となり、長さ15~30センチメートル、幅6~18センチメートルで、裏面は灰白色の軟らかい毛を密生する。縁(へり)は波形の深い鋸歯(きょし)がある。枯れ葉は翌春まで枝に残るものが多い。4~5月、新枝の基部から黄褐色の多数の雄花穂を下垂し、雌花は上部の葉腋(ようえき)に小さな花序をつける。殻斗(かくと)は3ミリメートルほどの柄があり、褐色、広線形の多数の鱗片(りんぺん)を螺旋(らせん)状につけた椀(わん)形で堅果の半分以上を包む。堅果は卵形ないし卵状球形で長さ1.7~2.5センチメートル。厚い葉と厚い樹皮があるため風衝地や火山周辺地域、山火事跡地に低木状の純林をよくつくる。また寒暖の差の大きい内陸気候の地域にもよく生える。日本全土、とくに関東地方以北に多く、関西地方では同様の立地にナラガシワが多い。台湾、朝鮮、モンゴルまで分布する。樹皮はタンニンの含有率がブナ科でもっとも高く、染色や革なめしとして用いられた。カシワは炊(かしい)葉の意味で柏餅(かしわもち)に、また神事に用いられ柏手となり残っている。漢字の柏は中国ではヒノキ科の植物をさす。槲・檞も俗字である。葉形や樹形がヨーロッパのoakに類似するためdaimyo oakの英名が一般的であるが、daimyoの意味には諸説がある。
[萩原信介 2020年1月21日]
文化史
今日カシワの種子は食用とされないが、縄文時代にはなんらかの方法で渋を抜き、食されていたのであろう。長野県の有明(ありあけ)山社大門北遺跡からは、種子が出土している。『古事記』に出る「御綱柏(みつながしわ)」の正体については、カクレミノ、フユイチゴ、オオタニワタリなどとする諸説があり、さだかではない。またカシワの名は、「炊(かし)く葉」から由来したとする説が有力で、古くは蒸し焼きに使われた葉の総称であったと思われる。現在でも柏餅にサルトリイバラ科のサルトリイバラの葉を用いる所がある。
[湯浅浩史 2020年1月21日]