インド,パキスタンおよびバングラデシュのイスラム教徒の宗教賛歌。この語はqawl(〈証(あかし)の言葉〉)に由来し,イスラム神秘主義の聖者pīrの廟で行われる記念祭にカッワールと呼ばれる音楽家によって歌われるものを指す。本来,スーフィーがその信仰告白と神との合一を達成する目的で行う集会で歌われた歌で,ペルシア,ウルドゥー語の詩型ガザルに節をつけて朗唱するもの。その内容は神秘主義的愛を歌い,神や預言者,聖者やイマームを熱烈にたたえるものが多い。伝説によれば,インドの詩人アミール・ホスローがこのカッワーリーなる歌唱様式を創始したとされるが,音楽的には今日の北インドの古典音楽ヒヤールと密接な関係をもつ。18~19世紀にはカッワールがヒヤールを歌っていた事実が知られ,今日のヒヤールの中にはカッワーリーに基づくレパートリーが存在する。現在カッワーリーは,一座のリーダーとしての歌い手,ハルモニウム,ドーラク(太鼓),ダンタル(金属製の体鳴楽器),小型シンバル,タンバリン,そして大正琴から成る楽団サマジュによって演奏される。今日のカッワーリーはモスクや廟の境内のみならず,街の広場やレストランなど非宗教的な場でも行われ,海外へも公演に出かけるほどポピュラーになっている。
執筆者:柘植 元一
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