改訂新版 世界大百科事典 「カトリック解放法」の意味・わかりやすい解説
カトリック解放法 (カトリックかいほうほう)
Catholic Emancipation Act
1829年に成立したイギリスの法律。16世紀の英国国教会成立以後,とくにエリザベス1世の後半期以降,カトリック教徒は法律によって,国教忌避はもちろん,ミサの開催,教会堂の設立,カトリック教育の実施,土地の所有などを厳重に禁じられた。罰則は厳守はされなかったが,イギリス革命期には彼らは反抗分子とみなされ,議会は王政復古後の1673年審査法を制定,カトリック教徒を議員・官職・陸海軍人の職から一切追放した。次いで名誉革命後のジャコバイトの反乱に対応して制定された一連の刑罰法によって,抑圧はいっそう強化され,とくに信徒が住民の8割を占めるアイルランドで苛酷をきわめた。18世紀後半には上記の諸法の適用も緩和され,ゴードン暴動(1780)のようなプロテスタント側の反発・偏見も見られたが,1778-93年に一連のカトリック救済法が制定された。だが併合法(1800)によって自治を奪われたアイルランドの不満は強く,同地の信徒は,1810年代にはホイッグ政府が示した妥協的なカトリック解放案に激しく反発した。その指導者D.オーコンネルは,23年カトリック協会を結成,大規模な資金運動を背景に28年7月のクレア州補欠選挙で勝利をおさめ,これに衝撃を受けたウェリントン内閣は,反乱の危機を回避すべく貴族院・国王を説得して29年4月カトリック解放法を成立させた。同法によりカトリック教徒は国法に忠誠を誓ったうえで,参政権,特定の高官を除く公職につく権利,信仰の自由などの公民権を獲得し,ほぼ解放された。ただしアイルランドについては,下層中産階級の参政権が制限され,差別は残った。
執筆者:古賀 秀男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報