日本大百科全書(ニッポニカ) 「カマス」の意味・わかりやすい解説
カマス
かます / 魳
魣
barracuda
sea pike
硬骨魚綱スズキ目カマス科Sphyraenidaeの海水魚の総称。口を大きくあけて餌物(えもの)を大食するさまが、蓆(むしろ)を二つ折りにして穀物や塩などを入れた袋(叺(かます))に似ているので、この名があるという。体は細長く頭は細くとがる。下顎(かがく)は上顎より突出し、上下両顎に牙(きば)状の強い歯がある。背びれは2基で互いによく離れており、第1背びれは小さくて5本の棘条(きょくじょう)しかない。胸びれは短く、腹びれは胸びれの基部よりやや後方にある。
沿岸の表層を遊泳し、小形魚は群れをつくるが、大形魚は成長とともに群れなくなり、しだいに単独で行動するようになる。代表的な肉食魚であり、群れをつくる小魚を追って食べる。サンゴ礁海域では大形魚はサメ類やハタ類などとともに食物連鎖で最高の地位にあり、イワシ類、アジ類、ベラ類、スズメダイ類などを餌(えさ)としている。他物の形や行動に敏感に反応する性質があり、異常な行動をするもの、光るものなどに興味を示し、目にも留まらぬほどの速さで相手を攻撃して大きな傷害を与える。大形魚はとくに気が荒く、ダイバーや海水浴中の人間を襲う。場所によってはサメ類による被害よりも多いことがあり、暗い水中や濁った水中での被害が多い。
産卵は春から夏にかけてなされるが、多くの個体は1産卵期に数回に分けて放卵する。卵は分離浮性卵であり、卵径は1ミリメートル以下である。アカカマスの熟卵は卵膜が透明で多くの亀裂(きれつ)があり、油球は1個ないしは2個である。1回の産卵で20万粒を産むので、産卵期間を通じて多いものでは100万粒前後を放卵する。水温23℃では受精後1日余りで孵化(ふか)する。
熱帯のサンゴ礁にすむものは、シガトキシンciguatoxinという毒素をもつことがある。この毒素をもった魚を食べるとシガテラciguateraとよばれる中毒症状をおこし、ときに死亡することがある。この中毒症は神経障害が主であり、感覚がしびれ、全身に悪寒やふるえ、吐き気があり、ひどくなると腕や足の筋肉や関節に激痛がおこる。この徴候は徐々にまたは急激に現れる。毒素は地域や季節によって著しく異なるが、カマス類が食べた餌から体内に蓄積されたものである。毒素はもともと海藻類に含まれており、これを食べたサザナミハギなどの藻食魚に移され、さらにこれらを食べたカマス類に蓄積される。大形魚は小形魚より毒性が大きい傾向がある。オニカマスは国によっては産卵期に販売を停止することがある。
[落合 明]
種類
カマス類は世界には20種余りが知られている。そのうち世界的にもっとも有名なのは、英名でバラクーダbarracudaとよばれるオニカマス(別名ドクカマス)Sphyraena barracudaである。世界中の熱帯から亜熱帯に分布しており、日本でも南日本の太平洋岸、琉球(りゅうきゅう)諸島海域の内湾や、サンゴ礁域に生息する。鱗(うろこ)が大きく、側線に沿って75~87枚、側線より背方に数列に並ぶこと、体側の側線の上半分に青色の横縞(よこじま)があることが大きな特徴である。カリフォルニアカマスSphyraena argenteaも体長が1.2メートルになり、カリフォルニア沿岸を中心に北アメリカ太平洋沿岸の広い範囲に生息している。
日本の沿岸では体長数十センチメートルになるアカカマスSphyraena pinguis、アオカマスSphyraena nigripinnis、ヤマトカマスSphyraena japonicaなどは漁獲量が多く産業的に重要である。とくにアカカマスは一般にカマスとよばれ、美味である。琉球諸島以南の太平洋やインド洋の熱帯域にはオオカマスSphyraena putnamae、南日本からインド洋にかけてはオオメカマスSphyraena forsteriなどが広く分布している。オオカマスは体長2メートルほど、オオメカマスは体長90センチメートル前後になり、毒性は弱いが、まれに中毒することがある。そのほかに、日本からタイワンカマスSphyraena flavicauda、ホソカマスSphyraena helleri、オオヤマトカマスSphyraena africanaが知られている。
[落合 明・尼岡邦夫]
食用
肉は白身で淡泊な味であるから、料理には幅広く利用できる。新鮮なものは、身がしまっていて刺身にもなるが、一般的には水分が多いため、薄塩干しにして食用にすることが多い。なまの場合は、塩をしてしばらく置き、身をしめてから塩焼きにするとよい。洋風ではフライ、ムニエルによい。秋に味がよいとされるが、年中とれる。良質のかまぼこの材料でもある。
[河野友美]
かます
かます / 叺
藁莚(わらむしろ)を二つ折りにし、両端をコデ縄などとよぶ細い縄で縫って袋にし、容器として用いるもの。穀物、塩、肥料、石炭などを入れ、保存や輸送に利用する。材料には稲藁を使い、かつては農家が冬の農閑期につくっていたが、のちには専門業者がつくるようになった。現在は紙袋が普及し、その利用が急速に減っている。しかし、たとえば神奈川県相模原(さがみはら)市(旧津久井(つくい)郡)では正月に歳神(としがみ)様を祀(まつ)るのに、かますを使ったり、千葉県印旛(いんば)郡では家の交際仲間を「叺つきあい」というなど、容器以上の意味をもっている。
[小川直之]