日本大百科全書(ニッポニカ) 「からすみ」の意味・わかりやすい解説
からすみ(鱲子)
からすみ / 鱲子
ボラの卵巣からつくる塩乾品。形が中国の墨、唐墨(からすみ)に似ているところからつけられた名という。ボラの卵巣を水洗(すいせん)後、食塩をすり込み、樽(たる)に詰めて一昼夜置いたのち塩抜きする。これを水の中でもみ、卵粒を離し、板の上に並べ、その上に板を置き、数段重ね、徐々に圧力をかけて水を絞り出す。翌日、簀子(すのこ)の上に並べて日干しし、夜は圧力をかける。加圧と日干しを繰り返し、およそ乾いた状態になったら日干しのみ行う。20日程度で製品となる。角張り、薄い飴(あめ)色をしたものが良品。
江戸時代、長崎野母(のも)のからすみは、越前(えちぜん)(福井県)の「うに」、三河(愛知県)の「このわた」とともに「天下の三珍」としてもてはやされた。現在でも長崎でからすみの製造が行われている。長崎産のものは卵巣があまり成熟していないため卵粒が舌に触らず、ねっとりとしたうま味をもっている。ただし最近は原料が不足しているため、メキシコ、フロリダなどから塩蔵した卵巣を輸入し使用している。なお、台湾でもからすみがつくられているが、トド(大型のボラ)の卵巣を使うので製品も大きい。ただし熟卵のため、卵粒が舌に当たる。からすみは30%弱の脂肪を含み、不けん化物中にはセチルアルコールが多い。そのまま、またはあぶってから薄く切り、酒の肴(さかな)にする。また茶漬けにしてもうまい。生産量は少なく、高価なため、サメ卵とたらこから模造品がつくられ出回っている。
[金田尚志]