カワゴケソウ(読み)かわごけそう

改訂新版 世界大百科事典 「カワゴケソウ」の意味・わかりやすい解説

カワゴケソウ (川苔草)
Cladopus japonicus Imamura

南九州の渓流中の岩に付着するカワゴケソウ科多年草。1927年に今村駿一郎が,鹿児島県の久富木川で発見し,その後,川内川安楽川にも分布が確認されている。コケ植物のように見えるが,流水中の生活に適応して非常に特殊化した体制をもつ被子植物である。深緑色の扁平な器官が羽状に分枝しながら岩の表面をおおうが,これは根であり,付着器官であるとともに主要な光合成器官でもある。葉はところどころに束生する5mm程度の針状のものに退化している。9月ころ,水面上に露出した部分に,おしべとめしべ各1本,鱗片状の花被片2枚からなる小さく単純な淡紅色の花をつける。種子は微小で多数でき,胚乳が形成されない点が特異である。経済的には利用される植物ではないが,近年,電源開発により減少しており,保護が必要とされている。

 カワゴケソウ科Podostemonaceaeは,急流の岩にへばりつくように生育する生態的に特殊な水生植物で,熱帯を中心に世界に43属約140種あり,日本にはカワゴケソウ属3種,カワゴロモ属3種がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カワゴケソウ」の意味・わかりやすい解説

カワゴケソウ
かわごけそう / 川苔草
[学] Cladopus japonicus Imamura

カワゴケソウ科(APG分類:カワゴケソウ科)の多年草。根は扁平(へんぺい)な葉状体となり、濃緑色、著しく羽状に分枝して渓流の岩上に固着する。花茎は葉状体の分岐点の上面にでき、下部に数枚の針状葉を束生し、秋には10~12枚の葉が2列に密生する。茎葉は線形で深く2裂し、さらに掌状に浅く5、6裂し、針状葉に比べ著しく短い。10~12月、花茎上に長さ1.5センチメートルの花を1個頂生し、初めは卵形の鞘(さや)状になった包葉に包まれ、開花時には包葉の上部が不規則に裂ける。花被(かひ)2枚は針状で花糸の左右につき、雄しべ、雌しべともに1本、子房はゆがんだ卵形で花柱は2本。蒴果(さくか)は球形で長さ1.5ミリメートル。鹿児島県の川内(せんだい)川、安楽(あんらく)川など限られた河川に生育する。

[小林純子 2020年7月21日]

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百科事典マイペディア 「カワゴケソウ」の意味・わかりやすい解説

カワゴケソウ

鹿児島県川内川と安楽川の急流中の岩上にはえるカワゴケソウ科の多年草。一見コケ類のように見える。根は平たく,濃緑色で枝分れして岩面をおおい,ところどころに長さ5mmほどの針状の葉を束生。秋,長さ1cmほどの茎が伸び,小型の葉が10〜12枚,2列に重なってつき,頂に卵形のさやに包まれた小花を1個つける。おしべ,めしべともに1個。カワゴケソウ科の植物は,日本にはほかにカワゴロモなど数種があり,いずれも鹿児島県と宮崎県の限られた水系の急流岩上にはえる。

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