カーゴカルト(英語表記)cargo cult

翻訳|cargo cult

改訂新版 世界大百科事典 「カーゴカルト」の意味・わかりやすい解説

カーゴ・カルト
cargo cult

1880年代から今日にいたるまで,主としてニューギニアおよびメラネシアの各地で起こった千年王国主義的宗教運動。〈積荷崇拝〉と訳す。これらの地方では,19世紀後半になってから,イギリスドイツなどによって本格的に植民地化が進められた。植民地体制が整うに従って,現地の人々は社会的,経済的,政治的に劣位におかれ,抑圧された。このような状況のなかで,各地にカリスマ的予言者が現れ,神々を信仰することによって至福の世界が到来すると予言し,宗教運動を組織した。

 これらの宗教運動に共通する特徴は,カーゴの獲得を至上の目標にした点である。カーゴとは,英語で白人が船などでもたらす〈積荷〉のことであり,積荷は現地の人々にとっては羨望の的であった。そのためカーゴという語はこれらの地方の共通語であるピジン・イングリッシュにとり入れられ,〈外来物品〉を総称する語彙となった。ニューギニアの人々は,カーゴは人間が自らの努力で勝手につくりだせるものではなく,神々のみがつくりだせると信じた。そして,白人がカーゴを独占できるのは,神々が自分たち現地民のもとに送り届けてくれるカーゴを途中で横取りしているためとみなした。そこで,神々に対して熱狂的に祈りを捧げることによって,自分たちのもとにカーゴが確実に届けられると信じたのである。人々は予言者の言葉に従って,カーゴを満載した船を迎えるために埠頭を建設したり,倉庫を造って,カーゴを待望した。ある地方では,カーゴを待望するあまり,すべての伝統的な物品を破壊し,神々が授けてくれるはずの新しい物品を狂信的に待ちこがれるところもあった。このように,白人が優位にあるのはカーゴを独占しているためと考え,カーゴを自分たちの手に取り戻すことによって,至福の世界が到来すると信じた点で,カーゴ・カルトは千年王国主義的宗教運動の一種とみなすことができる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーゴカルト」の意味・わかりやすい解説

カーゴ・カルト
かーごかると
cargo cult

ニューギニアを中心とするメラネシアの各地で19世紀後半から現在まで、とくに第一次・第二次両世界大戦間に起きた一連の類似した宗教的社会運動の総称。カーゴとは積み荷を意味し、積み荷崇拝あるいは船荷崇拝とも訳される。ヨーロッパの荷物を満載した船(ときには飛行機)が現地住民の祖先とともに到来し、そのとき、いままでの白人優越の社会でない理想郷が実現するという信仰がこれらの運動の一般的特徴である。現地住民はカーゴの到来のために飛行場の建設、従来の社会制度の破壊、新しい町づくりなどをしたり、労働を放棄してひたすらカーゴを待ち続けたりした。このように理想郷の到来を目ざすことから、千年王国運動の一部として扱われることが多い。運動の指導者や予言者がかなりの政治的影響力をもつに至った場合もあり、現在でも形を変えて存続している例もある。これらの運動には、現地の伝統的世界観と、キリスト教の教義が同時にみられ、質的にも量的にも極端な差をもつ文化間の接触が重要な発生要因であるとされている。

[豊田由貴夫]

『P・ワースレイ著、吉田正紀訳『千年王国と未開社会――メラネシアのカーゴ・カルト運動』(1981・紀伊國屋書店)』

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百科事典マイペディア 「カーゴカルト」の意味・わかりやすい解説

カーゴ・カルト

1880年代以降,植民地状況下のニューギニアおよびメラネシア各地で起こった土着主義的宗教・社会運動。カーゴとは白人が汽船などでもたらす豊かな〈積荷〉,〈外来の物品〉をさす。神々に祈願することによって,カーゴはまもなく自分達のもとに確実に届けられ,至福の世界が到来するという預言に端を発することが多いことからこの名がある。この地域のナショナリズムの先行現象という評価もある。→土着主義運動千年王国
→関連項目メラネシア[人]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カーゴカルト」の意味・わかりやすい解説

カーゴ・カルト
cargo cult

1920~30年代を中心に第2次世界大戦後までみられた,メラネシアにおける宗教的・社会的運動。土着主義運動などと呼ばれる運動の一つで,「積荷崇拝」とも訳される。預言者の「今日ヨーロッパ人の手にあるさまざまな財は本来島民のもので,近い将来先祖の霊がそれらの財 (カーゴ=積荷) を汽船や飛行機に積んで戻り,われわれに至福の世をもたらしてくれる。そのとき世界の秩序は逆転し,現在の支配者であるヨーロッパ人に対してわれわれが優位に立つことができる」という言葉に基づいて,信徒たちは積荷を受入れるために大きな家や船,滑走路の模造物を作り,そのまわりで歌い踊る儀礼を行なった。代表的なものとしては,イギリス領パプアニューギニアで 1919~23年に起ったバイララ狂信などがある。これらの運動は,植民地化に伴うヨーロッパ文化との接触によって起る伝統文化の危機的状況を背景とし,またのちの自治権要求や独立の機運を促したともいえる。

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世界大百科事典(旧版)内のカーゴカルトの言及

【メラネシア人】より

…精霊がすべて形あるものを授けると信じられていたため,キリスト教が布教される際,メラネシア人の間で儀礼的手段によって白人のもつ品物を得ようとする統合的宗教運動が起こった。俗にカーゴ・カルト(船荷信仰)と呼ばれたこの種の宗教運動は,20世紀後半に入って白人の富と権力に対する羨望からしばしば社会・政治運動の性格を帯び,教会および植民地政府にとって深刻な問題となった。東部メラネシア社会の研究から超自然力マナの存在が信じられていることが報告されている。…

※「カーゴカルト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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