カーディー(その他表記)qāḍī[アラビア]

デジタル大辞泉 「カーディー」の意味・読み・例文・類語

カーディー(〈アラビア〉qādī)

イスラム教国における裁判官。特に、シャリーア裁判所の裁判官をさす。

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精選版 日本国語大辞典 「カーディー」の意味・読み・例文・類語

カーディー

  1. 〘 名詞 〙 ( [アラビア語] Qādī ) 歴史上、イスラム諸国で家族法相続法などの裁判にあたった法官。七世紀半ば頃から始まったとされる。学識高いウラマー(学者)が任命された。

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改訂新版 世界大百科事典 「カーディー」の意味・わかりやすい解説

カーディー
qāḍī[アラビア]

イスラム法に基づき,民事・刑事の訴訟に判決を下す裁判官。孤児・精神遅滞者の財産,モスクワクフの管理,近親に男子のない女子の婚姻契約書作成も職務に含まれる。イスラム法施行の責任はカリフにあり,そのため政府は国内各地にカーディーを任命するが,この原則が確立したのは7世紀末ごろで,それ以前にカーディーと称された者の多くは,地方公庫の管理者か戦利品分配の責任者,あるいは紛争の調停者(ハカム)にすぎなかった。アッバース朝カリフ,ハールーン・アッラシードは初めて首都にカーディー・アルクダート(大カーディー,初代がアブー・ユースフ)を置き,その後カーディー・アルクダート(イベリア半島ではカーディー・アルジャマーア)は司法行政の責任者となり,10世紀まではカリフの名において,それ以後は自らの名で全国のカーディーを任免した。行い正しい(アドル)ムスリムで,イスラム法学に造詣の深いことが任命の条件とされた。マムルーク朝ではスンナ派の四法学派を代表する4人のカーディー・アルクダートが置かれ,オスマン帝国ではハナフィー派の2人のカーディー・アルアスカルがこれに相当した。地方行政区画サンジャク(県)の下にいくつかのカダーqaḍā'(裁判区)が設けられ,各カダーにはカーディー・アルアスカルの任命するカーディー(日給150アクチェ未満)と,その推薦によってスルタンの任命するカーディー(日給150アクチェ以上)が派遣されたが,16世紀以降シャイフ・アルイスラームがカーディーの任免権を握った。
裁判
執筆者:


カーディー
khādī

カッダルkhaddarとも呼ばれる手織綿布で,伝統的なインドの農村手工業製品の一つ。イギリスの支配の確立過程でその産業は没落するが,1920年代に至り大衆的民族運動を指導するガンディーにより,スワデーシー運動の具体化として復活・奨励された。25年の国民会議派大会ではその生産の組織的拡大をはかるための全インド紡糸者協会が設立された。ガンディーによれば,カーディーは外国製および工場製綿布の追放のみならず,農村の自給制の象徴であった。
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百科事典マイペディア 「カーディー」の意味・わかりやすい解説

カーディー

イスラム世界における裁判官。元来はイスラム法に精通している神学者の意。イスラム法内の民事・刑事事件の裁判をつかさどる。初期にはカリフ自らが裁判を行ったが,やがて中央政府任命・派遣によるカーディー制が成立。寄付財産や孤児院の管理などもその職務に含まれる。ちなみにM.ウェーバーは,実質的な正義や衡平を重視し,法形式を軽視する裁判類型を〈カーディー裁判〉と呼び,裁判の理念型のひとつに仕立てた。
→関連項目イスラム文化ウラマー

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーディー」の意味・わかりやすい解説

カーディー
かーでぃー
ī

イスラム法(シャリーア)に基づいて民事、刑事に相当する審理を行う裁判官のこと。ムスリム共同体の長であるカリフに任命されるのをたてまえとする。カーディーの拠(よ)る法が本質的に宗教法であるため、カーディーの機能もまた宗教的であり、コーランに処罰規定のある犯罪(ハッド)、ワクフ(寄進財産)の管理、婚姻、相続といった宗教と密接な問題を取り扱うのみである。シャリーアの適用されない行政訴訟や治安に関する訴訟、処罰はカーディーの裁判にはよらずに、マザーリム法廷(行政裁判所)、シュルタ(警察)、ムフタシブ(市場監督官)などの別の機関が担当した。

[鎌田 繁]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「カーディー」の解説

カーディー
khādī

インドの手織綿布。カッダルとも呼ばれる。ガンディーはイギリス植民地期におけるインド綿織業衰退の問題をとりあげ,チャルカーによる手紡ぎ糸とともに,手織綿布の生産の復興を提唱した。彼はスワデーシーの観点から,また村落産業の育成のために,外国製や工場製の綿布に代わり手織綿布を生産,使用することを訴えた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カーディー」の意味・わかりやすい解説

カーディー
qādī

イスラム社会の法官。各地方ごとに任命され,イスラム法に基づいて民事ならびに刑事事件を裁き,その判決に対する上告は許されない。首都には大法官 (カーディー・アルクダート) が任命され,一つの町でも必要があれば各法学派のカーディーがそれぞれ任命された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「カーディー」の解説

カーディー
qādī

民事・刑事裁判の判決を下すイスラームの裁判官。オスマン帝国においては行政も担当
イスラーム法に通じていることが条件とされ,多くウラマーが就任した。カーディーは,裁判のほかに公的財の管理や代理人などの役割も果たしている。

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世界大百科事典(旧版)内のカーディーの言及

【イスラム】より

…イクター保有によって農村を支配したマムルークは,その富を基礎に都市の経済を左右するほどの実力を備えていたが,軍人の支配権にはムスリムに対する裁判権は含まれないのが原則であった。シャリーアに基づく裁判は,各都市に派遣されたカーディー(裁判官)によって行われた。しかもこれらのカーディーは,裁判の業務を超えて地方行政に参画することもまれではなかった。…

【裁判】より

…幾重にも監督を行えば弊害を防ぎうるというのがその信条であった。【宮崎 市定】
【イスラム】
 イスラム初期のカリフや総督たちは,みずから裁判を執行したが,ウマイヤ朝(661‐750)の中期以降カリフは裁判官(カーディー)を任命して,各地の都市に派遣した。イスラムの法律制度では,原則として裁判は1人の裁判官によって行われる。…

【綿織物】より

…1905年に始まったスワデーシー運動はイギリス製品のボイコットを行い,工場制綿布の生産を促した。第1次大戦後には30番手以上の細糸(競争番手)生産が増加し,イギリス綿糸布の輸入代替が進行するとともに,M.K.ガンディーが奨励したチャルカー(手紡車)とカーディー(厚地手織綿布)はインド民族運動の象徴ともなった。この期にはまた工場制綿布の生産高が手織綿布の生産高を上まわり,両者の合計が輸入綿布量を越えた。…

※「カーディー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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