アラブ音楽の撥弦楽器。1辺が底辺と直角をなす台形の箱のような形をした共鳴体に,ガットまたはナイロン製の弦が水平に張られている。弦の数は63本から84本で,普通72本であり,3本が1組で一つの音に調弦される。底辺に対し斜辺をなす左側面に糸巻きが並ぶ。糸巻きに沿って,ちょうつがいのついた小さな金属板が各組の弦の下に設けられており,この金属板を動かすことによって,4分の1音などの細かい音高の調節が可能になっている。これは曲中でマカームが変化するときに,あらかじめ演奏されるマカームに合わせて調弦されている音高を変えるために用いられる。演奏者はカーヌーンを膝または台の上にのせ,両手の人差指に,角製の爪をとりつけた指輪をはめて弦をはじいて奏する。独奏または歌の伴奏,あるいは他の楽器とのアンサンブルで奏される。多く男性が奏する。歴史的には10世紀から文献に名が見えている。
執筆者:粟倉 宏子
ギリシア語kanōnに由来するアラビア語で,ペルシア語,トルコ語にも採り入れられた。古くは租税用語として用いられたが,後にイスラムの宗教法としてのシャリーアに対し,世俗法を意味するようになった。イスラムにおいては,全社会生活は,シャリーアにより規律されるたてまえであるが,現実にはシャリーアにより覆いきれない部分が生じ,主として政治・行政上の世俗法としてのカーヌーンが成立していった。カーヌーンは,理論上はシャリーアを補完するにすぎぬものとされた。しかし,実際上は支配者の権威に基づく世俗法としてのカーヌーンは,シャリーアから独立した法体系と化し,両者の間の対立もみられるようになった。カーヌーンはオスマン帝国時代に,スルタンの権力の増大とともに著しい発達を遂げ,世俗法としてのカーヌーンの役割が増大し,法令集成としてのカーヌーン・ナーメが多数成立した。
執筆者:鈴木 董
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ギリシア語に由来するアラビア語で,イスラーム社会における法的体系の一つ。(1)イスラーム圏に包括された諸地域で行われる慣習法に相当し,この場合アーダと近似の意味となる。(2)イスラームの聖法たるシャリーアや諸地域の慣習法たるアーダと並行して,ムスリム君主が政治運営上の必要から,自己の意志にもとづき制定した法令を意味する。オスマン帝国では,シャリーアはスルタンの意志以上のもので改変できないが,カーヌーンとアーダはウルフ(この場合スルタンの意志)に従属し,ウルフが成文化されたときカーヌーンとなる。(3)カーヌーヌ・エサースィというと憲法の意味となる。
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アラブ諸国やトルコのチター属の撥弦(はつげん)楽器。古典音楽の旋律楽器として使用される。その起源は明らかでないが11~12世紀にはすでに西アジア各地やスペインで用いられていた。現在の形態は、表面片側が羊皮からなる台形の平たい木製共鳴箱の上に、75本前後のガット弦かナイロン弦を張ったもの(3弦ずつ同じ音に調弦する)が一般的で、弦の振動が駒(こま)を通して羊皮に伝わり、独特な音色が得られる。膝(ひざ)の上か台の上に楽器を置き、両手の人差し指にプレクトラム(義甲)をつけて、トレモロ奏法を主体に演奏する。また、使用する旋法にあわせて微小音程を調節できる装置を駒に付したものもある。
[山田陽一]
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