微分音(読み)びぶんおん(英語表記)microtone

改訂新版 世界大百科事典 「微分音」の意味・わかりやすい解説

微分音 (びぶんおん)
microtone

半音より狭い音程総称。半音は全音の1/2の音程であり,したがって微分音はそれより狭い4分音(全音の1/4),6分音(全音の1/6)などをいう。理論的にはさらに細分割が可能であるが,聴覚的識別は困難となる。微分音の最も代表的なものは4分音で,西アジアでは古来4分音的な音程が重視されていた。古代ギリシア音階においても,アリストクセノスはエンハルモニコスenharmonikos(エンハーモニック),クロマティコスchrōmatikos,ディアトニコスdiatonikosという主要な三つのテトラコルドによって,旋律を体系づけているが,このうちエンハルモニコス型のテトラコルドは中に4分音を含んでいる。また音律論では,ピタゴラスコンマが微分音となる。

 微分音は,民族音楽において微妙な音程進行や,音の揺れとして多くみられるものであるが,その他の音楽においても表現上の意図からビブラートポルタメントにおいて生じている。

 20世紀になると,微分音は音楽語法の一つとして積極的に取り上げられ,とくにハーバは微分音による作曲を体系化し,4分音によるオペラ《マトカMatka》,6分音による《弦楽四重奏曲第10・11番》など多数作曲した。また第2次大戦後には微分音はペンデレツキらのトーン・クラスターとしても用いられている。
音階
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「微分音」の意味・わかりやすい解説

微分音
びぶんおん
microtone

半音よりも狭い微小音程。広義には、半音より広い音程をもつ拡大音程のことも含む。全音を何分割するかによって3分音、4分音などといわれる。西洋における音律論上の微分音の歴史は古く、古代ギリシアのディエシスとよばれる4分音的音程に始まり、後期ルネサンス以降のオクターブを等分しようとする試みが、19、31、53平均律などを生み出した。19世紀末以降は、音素材の拡張手段として4分音、3分音、8分音などが多くの作曲家や楽器製作者によって用いられている。もともと諸民族の音階構成音の多くは、厳密には西洋の十二平均律の全音や半音では律しきれない微妙な差異を示しており、なかには西アジアやインドのように厳密な理論に裏づけられた微分音を発達させた民族もある。西アジアの微分音は西洋の観点により中立音程とよばれ、独自の不思議な魅力を音楽に与えている。インド音楽では、一オクターブを22に分けるシュルティという微分音の概念が古くからあり、それを背景に微分音程を含む音階が形づくられている。

[南谷美保]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「微分音」の意味・わかりやすい解説

微分音
びぶんおん
microtone

半音より狭い音のこと。理論的には無限に存在するが,全音を分割する度合いによって,3分音,4分音,6分音,8分音,16分音などと呼ばれ,アジアの音楽や,東洋の影響のより強いヨーロッパの民俗音楽 (ジプシー音楽や東ヨーロッパの民俗音楽) にしばしばみられる。ヨーロッパの芸術音楽においては,古代ギリシアのエンハーモニック・テトラコード以来微分音は長く登場しなかったが,20世紀初頭,F.ブゾーニや A.ハーバらによって意識的に用いられだした。その後シンセサイザーなど電子楽器の発明,開発によりさまざまな作品が生れるようになった。

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