ガダマー(読み)がだまー(その他表記)Hans-Georg Gadamer

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガダマー」の意味・わかりやすい解説

ガダマー
がだまー
Hans-Georg Gadamer
(1900―2002)

現代ドイツの代表的哲学者の一人。哲学解釈学の提唱者。マールブルクに生まれる。マールブルクなどの大学で哲学、古典文献学、美術史などを学ぶ。1938年にライプツィヒ大学教授となり、1947年、当時の西ドイツフランクフルト大学に移った。後、ハイデルベルク大学名誉教授。その哲学形成にとって決定的であったのはハイデッガーとの出会いであるが、それは初めアリストテレス解釈を通じてであった。ブルトマンに導かれた神学者たちとの交友関係も無視できない。理解をわれわれの経験の地平の融合ととらえる彼の解釈学思想は、ハイデッガーの理解を人間の存在様式そのものととらえる解釈学的現象学を踏まえて、ディルタイ的な精神科学の問題、すなわち歴史、より詳しくは歴史性をもつ世界を扱った。近代科学・近代文明への批判を込めた、人文主義的真理と近代科学の方法性の緊張関係の指摘、権威と伝統の復権とそれらへの批判との結合示唆、人間の歴史的存在性・有限性の深い自覚、ことに、理解されうる存在は言語であるというテーゼに示された経験自体の根源的言語性への注目などは、今日広範な哲学的テーマとなっている。言語の観念論をめぐるイデオロギー批判のハバーマスとの論争、テクスト解釈にかかわるデリダとの論争(むしろ論争不能)は、現代の精神状況を考える際の重要な参照事項である。主著に『真理と方法』(第1版・1960、第2版・1965、第3版・1972)がある。

[常葉謙二 2015年2月17日]

『轡田収他訳『真理と方法Ⅰ』(1986/新装版・2012・法政大学出版局)』『斎藤博他訳『哲学・芸術・言語』(1977・未来社)』『中村志朗訳『哲学修業時代』(1982・未来社、1996再版『ガーダマー自伝――哲学修業時代』と改題)』『本間謙二・座小田豊訳『科学の時代における理性』(1988・法政大学出版局)』『本間謙二・須田朗訳『理論を讃えて』(1993・法政大学出版局)』『轡田収他訳『真理と方法Ⅱ』(2008・法政大学出版局)』『轡田収他訳『真理と方法 Ⅲ』(2012・法政大学出版局)』『丸山高司著『ガダマー 地平の融合』(1997・講談社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ガダマー」の意味・わかりやすい解説

ガダマー
Hans-Georg Gadamer
生没年:1900-2002

現代ドイツの代表的哲学者の一人。当初マールブルクの新カント学派に学んだが,1920年代の思想の坩堝(るつぼ)の中にあって,フッサールの現象学,さらに《存在と時間》前後のハイデッガーから決定的影響を受ける。ライプチヒ大学等の教授を歴任したのち49年以降ハイデルベルク大学教授。彼の基本的問題意識は,19世紀的歴史意識に潜む相対主義と空疎な教養主義を,20世紀の時代経験の立場から克服し,精神科学における理解と人間存在の歴史性の関連を問い直すことであった。〈哲学的解釈学〉と称するこの試みは,《真理と方法》(1960)に結実した。とくに歴史解釈の多様性を,言語性,歴史性,伝統保持といった人間存在の基本的形式との関連で,〈作用史〉の名のもとに積極的に意義づけた同書は,60年代半ば以降,精神科学の危機が明瞭になるにつれて,数多くの議論を呼び起こした。中でもフランクフルト学派につながるハーバーマスとのそれは重要である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガダマー」の意味・わかりやすい解説

ガダマー
Gadamer, Hans-Georg

[生]1900.2.11. ドイツ,マールブルク
[没]2002.3.13. ハイデルベルク
ドイツの哲学者,哲学史家,美学者。 1937年マールブルク,38年ライプチヒ,47年フランクフルト,49年ハイデルベルク各大学教授を歴任。 W.ディルタイの精神科学の方法論と M.ハイデガーの存在論から出発しながら,独自の解釈学を展開した。主著"Plato und die Dichter" (1934) ,"Wahrheit und Methode" (60) ,"Dialektik und Sophistik im 7. platon. Brief" (64) 。

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百科事典マイペディア 「ガダマー」の意味・わかりやすい解説

ガダマー

ドイツの哲学者。マールブルク出身。ライプチヒ,フランクフルトを経て,1949年ハイデルベルク大学教授。ディルタイ,フッサール,ハイデッガーの影響の下,人間と歴史に新たな了解の地平をもたらす〈哲学的解釈学〉を展開,主著《真理と方法》(1960年)は大きな反響を得た。著作はほかに《ヘーゲルの弁証法》(1971年),《哲学,芸術,言語》(1967年―1977年)など。

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世界大百科事典(旧版)内のガダマーの言及

【解釈学】より

…20世紀後半の解釈学はそのアポリア克服を課題としている。その代表としてガダマーの《真理と方法――哲学的解釈学要綱》(1960)が挙げられる。彼は自然科学の〈方法〉に,人文科学の〈真理〉を対置して,ディルタイの課題を継承する。…

【了解】より

…その点は歴史に関しても同じで,歴史への了解的態度は,現在における世界定位という実践的性格をもつ。この考え方をさらに発展させたのがガダマーの解釈学的反省である。 これと別にM.ウェーバーは,人間の行為の〈主観的意味〉の了解をめざす了(理)解社会学verstehende Soziologieを構想している。…

※「ガダマー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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