抗アメーバ薬で,黄色,無臭の粉末。分解点175℃。沸騰無水エタノール,熱氷酢酸には溶けるが,水,エタノールにはほとんど溶けない。アメーバは栄養型よりも囊胞型のほうが抵抗性が大きいが,キノホルムは腸管内の両型のアメーバに有効であり,他の器官のアメーバにはほとんど効かない。この薬物の出現したのは1899年であり,当初はヨードホルムの代りに防腐薬として創面,やけど,潰瘍などに用いられた。アメーバ赤痢に対しては,10日間内服,7~10日の休薬期間をおいて,また10日間内服,という使い方であった。1日0.3~0.6g内服であったのが,1920年代に一般の下痢にも用途が拡大され,1日1~2g使用されるようになった。
1955年ころから日本でスモン(亜急性脊髄視神経炎)が発生したが,豊倉康夫らは70年にスモン患者の緑舌に緑色毛状苔が生え,便が緑色になることに着目し,同年田村善蔵らはスモン患者の緑舌の緑色物質はキノホルムと鉄の化合物であることを明らかにした。さらに同年,椿忠雄らはキノホルムがスモン発症の原因である可能性が強いことを示した。現在,日本ではキノホルムおよびこれを含む薬剤の販売・使用が停止されている。
執筆者:福田 英臣
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C9H5NOClI(305.52).5-クロロ-7-ヨード-8-キノリノール(5-chloro-7-iodo-8-quinolinol)ともいう.淡黄白色~淡黄褐色の軽質の粉末.わずかに特異な臭いを呈する.無味.融点約175 ℃(分解).熱氷酢酸,ジメチルホルムアミドに易溶,水,エタノールに不溶.光によって徐々に変化する.殺菌剤.本剤がスモン(SMON,subacute myelo-optic neuropathy)の発生にきわめて深い関連をもつことがわかり,1970年9月にキノホルムおよびその含有製剤の販売および使用が停止された.[CAS 130-26-7]
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…subacute myelo‐optico‐neuropathy(亜急性脊髄・視神経・末梢神経障害)の略。スモンは,下痢止めとして市販されていたキノホルムにより生ずる神経障害で,1972年までに全国で1万1007人の患者をもたらした。本症は1955年ころから日本でぽつぽつと発生し,漸次増加の一途をたどり,原因不明の病気として医学界はもちろん大きな社会問題となった。…
※「キノホルム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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