スモン(読み)すもん(英語表記)SMON

翻訳|SMON

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スモン」の意味・わかりやすい解説

スモン
すもん
SMON

急性脊髄(せきずい)視神経障害(subacute myelo-optico-neuropathy)の頭文字をとった病名で、まだ原因不明のときに名づけられたもの。現在ではキノホルム剤服用による中毒性神経障害とよぶべきものである。昭和30年代の初めころから、日本で多数の患者が発生した原因不明の神経疾患であったが、1970年(昭和45)キノホルム剤服用により生ずる中毒性神経疾患の疑いが濃くなり、キノホルム剤の販売中止とともに患者の発症がみられなくなった。1972年3月、原因はキノホルム剤服用によるものと結論され、厚生省(現厚生労働省)では特定疾患(難病)の一つとしてその対策が講じられた。近年における薬害の一つとして重大な反省を迫られる疾患であり、新しい患者の発生はなくなったが、後遺症に悩む多数の患者に対する補償治療、患者の社会復帰が大きな問題となっている。

 一般にキノホルム剤は、胃腸炎、胆道疾患、肝疾患、その他多くの消化器疾患に基づく下痢腹痛、悪心などにきわめて有効な薬剤であるが、1日の服用量が多いほど、また服用期間が長いほどスモンの発症率は高く、成人以上にみられるが、男性より女性に多く発生している。病理学的には脊髄、末梢(まっしょう)神経、視神経に対称的な亜急性の変性所見がみられ、脊髄では後索と側索の変性が、また末梢神経および視神経では軸索の変化が強く認められている。

 症状は、神経症状に先だって下痢や腹痛などの腹部症状がみられ、引き続いて急性または亜急性に対称性の下半身、ことに末端に強い知覚障害がおこるのが特有で、知覚障害の境界は不鮮明である。知覚障害のうちでも異常知覚が顕著で、締め付けられるとか、じんじんするなどの耐えられない感覚が特有である。同時に下肢の筋力低下、錐体路(すいたいろ)症状(腱(けん)反射亢進(こうしん)、バビンスキー反射陽性)を示すことが多い。そのほか、両側性視力障害、脳症状(意識障害、けいれん、注意力散漫、不眠、不随意運動など)や精神症状、緑色舌、緑色便、膀胱(ぼうこう)・直腸障害などを伴ってくる。発症以後は慢性の経過を示し、末梢部に強い異常知覚が現れる。治療としては特有なものがなく、対症療法としてビタミンB12やB1の大量投与、副腎(ふくじん)皮質ステロイドなどが試みられているがなかなか効果が少なく、リハビリテーション療法も行われているが、効果はきわめて不十分なものである。

[里吉営二郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スモン」の意味・わかりやすい解説

スモン
SMON; subacute myelo-optico-neuropathy

亜急性脊髄視神経末梢神経病の英語名の頭文字をとって名づけられた。下痢と腹痛の続いたあと,両下肢の先端から左右対称にしびれが上行し,下半身で停止する人が多いが,上半身にも及び,また視神経障害で失明し,さらに死にいたる場合がある。剖検の結果は,脊髄,視神経に病変が認められる。整腸止痢剤として胃腸病に多用されたキノホルムの大量投与が原因となることが明らかとなり,厚生省は 1970年にその販売を停止した。患者数は1万人をこえており,史上最大の薬害といわれている。

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