改訂新版 世界大百科事典 「ギョウチュウ」の意味・わかりやすい解説
ギョウチュウ (蟯虫)
pinworm
Enterobius vermicularis
双腺綱蟯虫科に属する線形動物。臘様白色,糸くず状の小線虫で,雄は体長3~5mm,体幅0.1~0.2mm,雌は体長7~13mm,体幅0.3~0.5mm程度である。頭部左右に側翼があり,口唇は3個,食道の後端は球状にふくれている。雄の尾端は腹側に巻いており,交接囊様の小尾翼が認められ,1本の交接刺をもっている。雌の尾端は細長くとがり,体部の前方1/3の腹側正中線上に陰門がある。世界中に広く分布しており,集団生活,人口の過密化に伴って感染の機会が多くなるため,日本はじめ先進諸国にも普通にみられる。寄生部位は盲腸であるが,雌は虫卵が子宮内に充満すると,夜間睡眠中に肛門からはい出し,肛門の周囲に子宮内の全虫卵(6000~1万個)を産卵して,通常そこで死滅する。虫卵は数時間で幼虫包蔵卵に発育し,これが経口摂取されると,十二指腸で幼虫が孵化(ふか)し,盲腸で成虫となる。感染から産卵まで,約50日を要するとされている。経口感染の経路としては,手指によって直接口へ運ばれるほか,塵芥(じんかい)感染dust-borneも重要である。これは,下着,シーツなどから床に落下した虫卵が,塵芥に混じったり食物を介して摂取されるもので,学校や銭湯などでの感染の原因となるものである。ギョウチュウは宿主特異性が強く,他の動物(たとえばネズミなど)につくギョウチュウがヒトに寄生することはまれである。また腸症状も通常は軽微である。ただし,産卵時の刺激のため肛門の周囲,会陰部に搔痒(そうよう)感を覚え,そのため睡眠障害を起こし,ひいては学童の場合注意力散漫,記憶力低下などにより,学力低下,精神面の障害をきたすこともある。まれに大腸壁あるいは虫垂壁に穿孔(せんこう)を起こしたり,肝臓,肺など他の臓器に迷入して肉芽腫を形成することもある。診断は,セロハンテープを肛門周囲にはりつけて,それに付着した虫卵を証明することによって行う。駆虫剤としてはピペラジン剤,ピリビニウム剤,ピランテル剤が有効で,駆虫は困難ではないが,再感染防止がきわめてたいせつであり,家族あるいは集団全員に対して行う必要がある。
執筆者:小島 荘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報