アメリカのエールリヒJ.Ehrlichによって1947年,南アメリカのベネズエラの土壌中から分離された放線菌の1種Streptomyces venezuelaeを培養して得られた抗生物質。はじめクロロマイセチンと命名されたが,48年クロラムフェニコールとなった。中性物質で,無色針状または板状結晶として得られ,苦味がある。水に難溶(約2.5mg/ml)だが,パルミチン酸エステルまたはコハク酸エステルなどの有機酸エステルにすると,苦味がなく,水にも比較的溶けやすくなる。このエステルは,生体内ではエステラーゼによってクロラムフェニコールになって作用するが,生体外では抗菌力がない。クロラムフェニコールは安定な物質で,水溶液は37℃で1ヵ月以上,100℃,5時間加熱で力価の低下がない。グラム陽性・陰性菌の発育を阻止するだけでなく,リケッチア(ツツガムシなど),ある種のウイルスにも強い作用をもち,広範囲の抗菌スペクトルをもつ最初の抗生物質である。とくに腸チフス,パラチフス,ゲルトネル菌腸炎などのサルモネラ感染症に著しい効果を示し,これらの病気に対しては第1選択の薬剤とされる。内服および注射によって用いられる。作用機序は,細菌リボソームに結合することによるタンパク質合成の阻害である。副作用は一般に軽微であり,すぐれた抗生物質であるが,未熟児,新生児では,高血中濃度を保ち,グレー症候群Gray syndrome(急性循環不全により頻脈やチアノーゼを起こす)を起こすことがあり,成人でも,まれに再生不良性貧血が起こり,重篤な症状を示すことがあるので,腸チフス,パラチフスなどサルモネラ以外では,他の薬剤の耐性菌を除き,使用は著しく制限されるようになった。長期間投与する場合,血液異常に注意する必要がある。48年合成による製造法がアメリカのコントローリスJ.Controulisらによって発表され,その後の製造は合成法によっているが,優秀な抗生物質の合成化はこれが最初である。日本では現在,クロロマイセチン(クロマイと略称),ケミセチン,アンタシン,パラキシンその他の商品名で製剤化されている。
→抗生物質
執筆者:鈴木 日出夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
1947年に南アメリカのベネズエラの土壌から発見されたストレプトミセス・ベネゼエレStreptomyces venezuelaeという放線菌の培養液から得られた抗生物質で、「クロロマイセチン」(クロマイと略称)の商品名で有名である。合成に初めて成功した抗生物質としても知られる。白色ないし黄白色の結晶または結晶性粉末で、においはなく味は苦い。グラム陽性菌、グラム陰性菌、スピロヘータ、リケッチア、クラミジアに有効で、広域性抗生物質の一つである。以前は繁用されたが、悪性貧血など重篤な副作用のため、現在では点眼液など外用のほかは、内服では腸チフスなど特定の感染症のみにしか適応されず、使用量は激減した。
[幸保文治]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…したがって,抗生物質という言葉も物質も比較的新しいものである。40年以降,ストレプトマイシン,クロラムフェニコール,テトラサイクリンなどのすぐれた抗菌力をもつ抗生物質がつぎつぎに発見され,細菌感染症の治療は飛躍的に進歩した。その後のたゆまぬ新抗生物質の発見とその改良により,不感受性菌や耐性菌の問題もほとんど克服され,長い間恐れられてきた種々の伝染病(結核,赤痢,腸チフスなど)の重圧から人類は解放された。…
※「クロラムフェニコール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新